No.26 麻生みこと『路地恋花』

榎本海月の連載

麻生みこと『路地恋花』(講談社、全4巻、2009〜2012)
初出:『good!アフタヌーン』(2009〜2012)

職人や芸術家の路地

京都のとある路地に、若い職人や芸術家ばかりが集まる場所がある。みな仕事にこだわりはあるけれどたいてい商売下手で、きちんとした店や工房を持つには至っていない人々だ。それから少なくないメンバーが訳あり――引きこもりだったり、仕事から逃げてきた(元)小説家だったり、女性がらみのトラブルで家を出ざるを得なかったり、甘やかされてきた箱入り娘が自立のために一人暮らしを始めたのだったりする。
本シリーズは、そんな彼あるいは彼女たちに訪れる、ドキドキしたり切なかったり気持ちが暖かくなったりするような恋の物語を集めた短編連作である。後に続編として、本シリーズに登場した靴職人の女性を主人公にした『小路花唄』が連載された。こちらも主な舞台は同じ路地で、『路地恋花』でお馴染みのキャラクターたちも時折顔を見せる。

恋も時間も移り変わる

このシリーズの特徴のひとつは、美しく楽しい恋ばかりではない、ということだ。悲恋、失恋、決別の物語がかなりの割合を占める。前向きな別れと再会が描かれることもあるし、ある話で未来への希望を伴って描かれたはずの恋が終わるところを後に見せられることもある。もちろんきっちりハッピーエンドで終わることも多い。しかし考えてみれば恋というのはそういうもので、美しいところも辛いところも含んでいるのが恋だ。そこをきっちり描いているのが本シリーズの魅力と言っていいだろう。
もう一つの特徴として、「時間が流れている」ことがある。路地の住人たちの多くは未熟だったり未来に向かって歩いている最中だったりの若者だ。彼らの多くは自分の夢に向かって足掻いており、時にチャンスを掴んで、路地を出ていく。あるいは別の人生を見出して、やっぱり出ていく。この路地は長い間居つくような場所ではないのだ。そうして人は入れ替わっていくし、各住人(元住人)のあり方も変わっていく。そうした変化もまた現実にあって当たり前のことであり、「ああ、これは作り話かもしれないけれど、地に足がついた物語なのだな」と感じさせてくれる。このような感覚は是非取り込みたいところだ。

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『路地恋花』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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