No.22 岡本健太郎 『山賊ダイアリー』シリーズ

榎本海月の連載

岡本健太郎 『山賊ダイアリー』シリーズ(講談社、『山賊ダイアリー リアル猟師奮闘記』が全7巻で2011〜2015、『山賊ダイアリーSS』が1巻刊行中で2017〜)
初出:『イブニング』(2011〜)

地元に戻って猪を撃つ!

岡山県出身、東京で活動していた漫画家の岡本健太郎は、当時付き合っていた彼女と別れて故郷に帰ってきた。なんのためか。それは猟師になるためだ――というのが本シリーズの大まかなあらすじである。その中でどんな鳥や獣が獲物になるのか、猟師がどんなテクニックやノウハウで狩りに挑むのか、著者がどんな失敗やそこからのリカバリーをするのか、また生存のための技術にどんなものがあるのか……が描かれているのだ。
「ダイアリー」というタイトル通り、山に入って空気銃や罠で狩りをし、あるいはその獲物を持ち帰って解体し、そして料理を作って味を楽しむ。ブログなどでも良く見られるコミックエッセイに近い作品と言ってもいいかもしれない。
のちに『SS』とタイトルを変え、著者があちこちに出かけて狩りや漁をする様を描くように方針転換したが、今のところ連載は休止中のようである。

個性的な猟師仲間たち

コミックエッセイ的な作品で大事なものといえば、主人公が出会う人々のキャラクター性とそのエピソードだ。そこにはある程度の誇張があっておかしくないし、実際その方が面白くなる。
本シリーズに誇張があるかどうかはわからない。しかし、主に著者の狩り仲間として登場するキャラクターたちが魅力的な人々ばかりなのは間違いない。同年代で、若々しく、未熟なところも多いが気の良い仲間たち。ちょっと変わったところも多いが親身になってくれる先達たち。また、故人ではあるが著者に大きな影響を与えた猟師の祖父。
それらの人々のキャラクター性が大変に楽しい一方で、それぞれの事情によって狩りから離れていく仲間たちの様が著者が意図していないであろうリアリティとなって物語に独特の味を与えてくれるのである。

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『山賊ダイアリー』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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