マレー半島の先端で
専門学校日本マンガ芸術学院の研修旅行に同行して訪れたことのあるシンガポールは、私にとって実に思い出深い場所です。単純に訪れて楽しかっただけでなく、発想力を刺激する場所であり、訪れて以来授業でたびたび言及してきたからです。
シンガポールはどんな国でしょうか。ざっくりいえば、「日本から東京だけが独立したような国」といえます。東南アジアのマレーシア半島の先端にあって、地続きなのにマレーシアから独立しています。
現在につながる発展の礎を築いたのはイギリス人です。19世紀初頭から開発が進み、貿易港として発展しました。この頃中国系の人々がたくさん入ってきています。太平洋戦争では日本軍に一時占領され、戦後は中国系住民が多かったこともあって、マレー人たちの国家であるマレーシアには参加せず、独立して発展しました。
不思議なところいろいろ
シンガポールは経済的に大いに繁栄していますが、水などの資源はマレーシアからの供給の頼っていますし、人手という点でも毎日国境を超えてやってくる出稼ぎの人々が重要です。若い女性がメイドとして働くのも普通とのこと。
印象的だったのが、マレーシアとの国境を渡ると明らかに風景が変わることでした。国境沿いの町はそれでもまだ近代的でしたが、もう少し進むと昔ながらの家や道になります。マレーシア側の観光地にはシンガポールには見なかった「明らかにぼったくる気満々の土産物屋」がいました。文化の違いを強く感じたのです。
シンガポールは「ゴミを捨てたら罰金」の法律で有名なように、かなり締め付けが厳しい国として知られています。政治体制も独裁的なところが少なからずあります。
このように、シンガポールという国は現在だけ見ると不自然だったり変だったりするところがありますが、歴史がつながっているからこそ、そうなっているのです。世界設定を作る際にはこのような「今の不自然さや変さは歴史から来ている」という考え方が非常に重要で、そのヒントがシンガポールという国にあると思うのです。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。