No.18 原作:伊集院静・作画:能條純一 『いねむり先生』

榎本海月の連載

原作:伊集院静、作画:能條純一 『いねむり先生』 (集英社、全四巻、2013〜2014)
初出:『グランドジャンプpremium』2011〜2013

傷ついた男と「先生」の旅

主人公のサブローは小説家である。しかしこの数年は酒とギャンブルに溺れる暮らしだった。最愛の妻を病で失ったのが原因だった。失意の中でどうしていいのかわからないまま時が流れる中、サブローに運命の出会いが訪れる。相手の名前は色川武大、あるいは阿佐田哲也。若き日には雀聖と呼ばれた伝説のギャンブラーで、今は直木賞を受賞した小説家である。ナルコレプシーという病気のせいで突然寝てしまう癖があり、タイトルの「いねむり先生」はまさに彼のことだ。
サブローは「先生」に誘われ、幾度かギャンブル旅に出かけることになる。旅先の風景、出会い、交わされる言葉。それは傷ついたサブローの心を癒すものでもあり、なによりも「先生」という魅力的な人物との楽しい旅だった……。
伊集院静の自伝的小説のコミカライズ作品。原作者本人や色川武大はもちろんのこと、原作者の妻である夏目雅子や漫画家の黒鉄ヒロシ、ミュージシャンの井上陽水などの有名人たちがそれとわかる姿で出てくるのも特徴のひとつといえる。

「純文学的」作風

本シリーズをおすすめするのは、いかにも「純文学的」な作品だからだ。この作品、大まかなストーリー自体はそう難しいものではないから、さらっと読むかぎりは困るということはあまりない。サブロー(=伊集院静)が「先生」に惹かれていく流れも、「先生」が名声と本当の自分の中で居心地の悪さを感じていることも、読んでいれば大まかにはわかるように書いてある。
しかし、一つ一つの言葉やエピソードになると、「果たしてこれはどういう意味なのか」「この人はなぜこういう行動をしているのか」「作者はどんな意図を込めたのか」をいくらでも考える余地がある。原作のそのような純文学的要素が丁寧にコミカライズされているので、発想力の練習として「これはどういう意味かな」「自分ならどうするかな」と考えるのに非常に向いているのだ。

<購入はこちら>

『いねむり先生』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

↑こちらから同じカテゴリーの記事一覧をご覧いただけます
タイトルとURLをコピーしました