No.16 大河原遁『東坡食譜』

榎本海月の連載

大河原遁『東坡食譜』(集英社、全1巻、2017年)
初出:『グランドジャンプpremium』

 「東坡肉」を広めた人

中世中国、北宋の時代に蘇東坡という男がいた。詩人・書家として宋代を代表する名人である一方で、「旧法派」「新法派」に分かれて政治闘争を行ったこの時代に前者の中心的人物の一人として名を知られたエリート官僚でもある。そしてもうひとつ、現代に「東坡肉(トンボーロー)」の名で知られる肉料理を広めたグルメとしても有名であった……。
政争に敗れた東坡が辺境の黄州へ流刑の憂き目にあっていた時代を舞台に、政治とグルメとちょっとアクションが毎回入った短編連作。苦しい状況においても基本腐らず、柔軟な視点を常に失わず、周囲に良い影響を与えていく東坡のキャラクター性が非常に魅力的な作品である。

要素を探し出し、組み合わせる

著者はスーツを主題にした『王様の仕立て屋』シリーズが代表作で、こちらはいわゆる蘊蓄もの、職業もの作品として非常に勉強になる作品だ。つまり、一つの商品やテクニック、エピソードを核にしてどういう風に話を転がすかというのが非常に上手いのである。ただ、とにかく長い話なのでこの連載ではちょっと紹介できない。
そこで同作者の本書を紹介したい。これは単巻かつ短編連載なので非常に読みやすい。それでいて『王様の仕立て屋』シリーズでも発揮されていた「アイディアをいかに組み合わせて話を広げるか」のベテランのテクニックが十分に発揮されている。たとえば本書の場合には主人公と同時代の人々、主人公に絡んでこられそうな人々を探し、うまいこと組み合わせている。これは皆さんが何かしらの主題をもとに話を作るときに大変役に立つはずだ。

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『東坡食譜』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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