No.15 能田達規『マネーフットボール』

榎本海月の連載

能田達規『マネーフットボール』(芳文社、7巻完結、2015〜2016)
初出:『週刊漫画TIMES』(2015〜2016)

地方サッカー選手の悪戦苦闘

梶本洋平(カジ)は愛媛で活動するサッカー選手。レンタル移籍中の二部チームから本来の所属である一部チームに戻ろうと悪戦苦闘するが、どうにも空回りが否めない。
新監督の掲げる「サッカーデータ革命」のキャッチフレーズにも理解が追いつかないが、監督には少なからず期待されているし、周囲も苦笑まじりでバックアップしてくれ、何よりもファンがいて、恋人もできる。ここで頑張らないわけにはいかない――。
そんなカジの奮闘のキーワードになるのが「サッカーと金」。サッカーチームはどのように運営されているのか。選手の年棒はどう決まるのか。リアルな数字が提示される一方で、単細胞のカジにも理解できるよう「ボール奪取1回3万円」というかなり具体的な(そして相当強引な計算の結果の)数字が出されるあたりも面白いしわかりやすい。
愛媛に住み、サッカーシーンを多様な側面から描き続ける作者による貧乏チーム奮戦記。

「リアル」をいかに描くか

本作はスポーツもの、そして職業ものの一類型として捉えたい。有名な職業の地味な側面や予想外の側面は面白いし、そこに正確なデータが入ってくるとグッと興味が惹かれる。
また、一見華やかな有名人たちが実のところ何を考えているのか? 何をモチベーションとしているのか? 顔は笑って「チームのために尽くします」と言って頭の中では金でいっぱいなのか――といえば「そうだけどそうじゃない」という微妙なところなのが実際。みんなそれぞれに事情があり、過去があり、目的があり、しがらみがある。その中でそれぞれに一生懸命生きている。
一方でドロドロしているばかりだと漫画としての面白さが失われがちなので、主人公のカジは「抜けてるところもあるけれど決して悪い奴ではないし、他人にすごく迷惑をかけるタイプでもない」「お金を貯めるという目標があり、それは母親のためである」という好印象を持たれやすいキャラクター造形になっている。
この辺のある種生臭くもあり、人情味があったりもする部分をキャラクターごとにしっかり書き込めると、全体に地に足のついた感じが出る。特に大人向けの作品では重要なポイントなので、ぜひ覚えておいて欲しい。

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『マネーフットボール』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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