No.13 雲田はるこ『昭和元禄落語心中』

榎本海月の連載

雲田はるこ『昭和元禄落語心中』(講談社、全10巻、2011〜2016)
初出:『ITAN』(2010〜2016)

名人と与太郎と

昭和末期、落語がはっきりと衰退の道を辿っていた時代。刑務所から出たばかりのチンピラが名人と讃えられる落語家・八代目有楽亭八雲のもとへ押しかけ、弟子にしてくれと訴えるところから物語は始まる。「与太郎」の名前をもらって落語修行を始めた彼は、やがて知ることになる。八雲の養女・小夏と彼女の父親でかつて八雲のライバルだった二代目助六、そして八雲にまつわる悲劇のことを。そして、八雲が落語と心中しようとしていることを――。
物語は一度昭和中期へ飛んで八雲と助六の因縁を描いたあと、バブル崩壊頃の落語の危機を、そして現在に至る長い長い時期を描く。その中で人が変わり、街が変わり、世間も変わる。それでも落語はそこにあるのだ、と物語は訴える……。

落語の入口として

時代の変遷の中で生きていく人々……という点を、NHKの朝ドラ的な大河ドラマとして楽しむのもよし。男と女の情念がぶつかり合う物語として楽しむのもよし。エンタメ的に十分面白い作品だが、ここで紹介したのは「落語への入口としていいのでは」と思ったからだ。
それこそ作中で語られているが、かつて大人気の娯楽であった落語は、いまはけっして主流とは言えない娯楽になっている。しかし、物語を作る人間として見逃せないエンタメであることも間違いないのだ。短い中で盛り上げ、笑わせ、泣かせる物語として構成や言葉遊びの参考に。また、一人の人間が複数の役を演じ分けるときにどんなテクニックを使っているのか(どういう演じ方をすれば、どこを特徴づければその人物に見えるのか、ということ)の見本に。
いまでも寄席は各地にあるし、何よりもYouTubeに数々の名人上手の動画があるので、実はいまはいつの時代よりも手軽に落語に触れられる時代でもあるのだ。視野を広げるために本作および落語の世界へ飛び込んでみてはいかがだろうか。

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『昭和元禄落語心中』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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