No.12 近藤信輔『忍者と極道』

榎本海月の連載

近藤信輔『忍者と極道』(講談社、3巻続刊、2020〜)
初出:アプリ『コミックDAYS』(2020〜)

東京を舞台に始まる殺戮

かつて江戸時代は明暦の大火のさなか、忍者と極道が命がけで殺し合った――それから350年近く。この東京で、いまでも忍者と極道は殺し合っている。
極道が大規模な悪事を行えば必ず忍者がやってきて殺害し、その凶行を止める。これに対して竹本組“裏組長”にして“破壊の八極道”と呼ばれるうちの一人・輝村極道(きむらきわみ)は極道の身体能力を強化するドラッグによって次々事件を起こし、忍者をおびき寄せる。これにより仲間を殺された“帝都八忍”は復讐と極道殲滅に動き出した。その中に、かつて極道に家族を殺され笑えなくなった少年、多仲忍者(たなかしのは)がいた。しかし極道(きわみ)と忍者(しのは)の2人は、一方で女子向けアニメ「プリンセスシリーズ」の愛好者としてわかり合った友人でもあった……。
現在大好評連載中で、忍者と極道がそれぞれ使う特殊技術・特殊能力や、「首が簡単に飛ぶ(しかも飛んだまま喋ったりする)」奇想天外なバトルシーンなどでSNSでも大人気の作品である。

敵役の描き方

単純に読む分には外連味たっぷりのバトルやアクション、ネーミングなどを楽しめばいいのだが、創作のヒントを探すにあたっては敵役の造形に注目してほしい。
この作品の敵役である極道たちは、しばしば「いい人」風に描かれる。仲間内では情に暑く、結束が固い。親分を殺した忍者への復讐を泣きながら訴える極道もいたりする。しかしその主張をよくよく聞いてみると「ちょっと女子供を皆殺しにしたくらいで」的なことを平然と言い放つのだ。彼らの破壊行為や不法行為で多くの命が失われ、人生が破壊される。しかしそのことを彼らは一顧だにせず、「いかに自分たちが哀れか」「いかに自分たちが忍者に脅かされているか」を訴える。あるいは正義と悪が戦うエンタメを当たり前のように楽しんだりもする。
私たちの感性では「どんな頭をしているんだ」と思いたくなるし、全く理解不能だ。だからこそ腹が立つし、忍者たちを応援したくなるし、一方で底知れぬ恐怖と興味を覚えたりもする。この極道たちの存在感は、作品の面白さを支える重要な柱の一つになっているのだ。

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『忍者と極道』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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