No.11 ぢゅん子『私がモテてどうすんだ』

榎本海月の連載

ぢゅん子『私がモテてどうすんだ』(講談社、全14巻、2013〜2018)
初出:『別冊フレンド』(2013〜2018)

泣いたら痩せてモテ出した!?

芹沼花依は女子高生で、腐女子で、ついでになかなかのぽっちゃりである。モテはしないがそれなりに親しい男子もいて、学校の美形男子たちを眺めてBL的妄想にふけるのが楽しみだった。
ところがある日、アニメの推しキャラが死んで大号泣。泣きに泣き暮らした末に激痩せし、美少女になってしまった!
突然現れた美少女に、以前から花依と縁のあった美形男子たちがアプローチを始める(態度があんまり変わっていない人もいる)。しかし花依自身はリアルの恋愛には興味が薄いし、男同士がいちゃついている方が嬉しい。まさにタイトル通り「私がモテてどうすんだ」なのだ。
また、オタク的価値観どっぷりの花依にアプローチしあぐねて美形男子たちも困り、日常がなんだかラブコメ風味になっていく……。

願望を形にする物語

本シリーズは私が授業などでたびたびサンプルとして挙げる作品の1つだ。設定は相当に荒唐無稽(花依の痩せる前と後は明らかに骨格からして変わっている!)だが、「突然痩せて美形になって異性からチヤホヤされたい!」という誰もが共感できる願望がほとんど剥き出しになっており、物語を作る際に大いにサンプルになるため、授業で取り上げることが多い。エンタメにおいてはこのくらい「こうだったらいいなあ」をドーンと押し出していいのだ。
しかし一方で願望丸出しは「全てがうまくいって何も苦労しない」にもつながりがちで、それでは盛り上がりに欠ける。うまくいかなかったり、ずれたりする展開があってこそ願望が叶うときに盛り上がるのだ。そこでこの作品の場合は「本人は望んでいない」「アプローチされてもなかなかうまくいかない」という仕掛けがされているので、ただ願望を丸出しにするだけにはなっていない。これはさまざまな作品に使えるテクニックなので覚えておいてほしい。

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『私がモテてどうすんだ』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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