No.9 原作:久部緑郎・作画:河合単『らーめん再遊記』

榎本海月の連載

原作:久部緑郎、作画:河合単『らーめん再遊記』(小学館、1巻続刊、2020〜)
初出:『ビッグコミックスピリッツ』(2020〜)

カリスマと呼ばれた男の再出発

かつてニューウェイブ系ラーメンの旗手、ラーメン界のカリスマと呼ばれた男、芹沢。しかし彼はいま、自分が明確なスランプに陥っているのを感じていた。かつて量産できていた独創的なラーメンのアイディアは見る影もなく、一方で次々と新しい天才たちが世に出て、ついには芹沢が獲れなかった賞を獲るものまで現れる。
芹沢の周りでもラーメン界から身を引くもの、新たなステップアップを志すものが現れる。では、芹沢自身の去就はいかに? すべては若き天才との勝負に託されるのだが……。
『ラーメン発見伝』『らーめん才遊記』と続いた原作&作画コンビによる第3弾。シリーズの重要キャラクターだった芹沢を主人公に、新たなラーメン界、新たな生き様を描く。

ミドルエイジクライシスを超えて

本作は単純にお仕事もの、グルメ漫画として読んでも面白いのだが、もっと注目するべきことがある。それは「セカンドチャンス」の物語としての本作だ。作中でもミドルエイジクライシスという言葉で紹介されるが、功なり名を遂げてふと気づくと情熱が失せている、自分の居場所がない、というのはよくある話だ。
主人公の芹沢もかつて見せていた野心やエネルギッシュさを失い、途方に暮れる。しかし彼はひょんなことから自分自身の本質と向き合い、そして再生を果たすのだ。この「失墜と再生の物語」は古くから人気があるし、大いに参考にしてほしい。
そうして再生した芹沢は(本稿執筆時にはまだコミックスに収録されていないのだが)驚くべき再チャレンジを始める……単にエンタメとしても、あるいは男の再生のドラマとしても、見逃せない作品なのだ。

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『らーめん再遊記』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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