No.7 伊藤勢『陰陽頭 賀茂保憲』

榎本海月の連載

伊藤勢『陰陽頭 賀茂保憲』(KADOKAWA、全1巻、2012)
初出:『コミック怪』(2007〜2011)

平安だけど現代的?

平安時代の京都は、現代の私たちには想像もつかぬ、妖怪たちが闊歩する都であった。これに敢然と立ち向かうのが陰陽頭(陰陽師組織・陰陽寮の長官)の賀茂保憲であり、お供の安倍信太丸(のちの安倍晴明)である。彼らは陰陽道の秘儀を持って京都の平安を守るのだ――!
……という紹介は、はっきり言って語弊がある。確かに本書は百鬼夜行ゆきかう平安京を舞台にした、いわゆる陰陽師ものの一作なのだが、シリアスな雰囲気はあまり期待しないほうがいい。九尾の狐が出てきたかと思ったら問題を起こしているのは彼女本人ではなく化け物級の大きさのエキノコックスだったり、妖怪・牛鬼が登場して京を踏み潰しかねない大暴れ……かと思ったら、その姿が巨大なウミウシだったり。
つまり、本書は陰陽師や妖怪が出てくる平安時代ファンタジーものである一方で、現代的な生物学知識などもバンバン出てくる、一風変わった平安もの作品なのである。なので、「鏡の妖怪がタブレットPCのように機能する」「怨霊を神社に封印しており、いざというときは神社を解体して解放する」などといった現代的・合理的な演出もドンドン出てくる。

あえて時代に縛られない

本書を紹介するのは、設定された時代の事情に忠実な描写をあえてしない手もある、ということを伝えたかったからだ。江戸時代もので横文字を喋ったり、中世ヨーロッパ風ファンタジーで現代知識を(特別な背景事情抜きで)持ち出しても上手くハマる瞬間はあるのだ。
もちろんそれは意味もなくやっていいわけではない。テンポのいい会話や説明がしたいときに、あえて現代用語を用いて分かりやすくする。あるいはギャグだからこそやる、という具合だ。本書の場合はギャグ・パロディ要素も多いし、伊藤勢のシニカルな持ち味とも相まって全く気にならなかった。高等技術だが、こういう手もあるのだと覚えておいて欲しい。

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『陰陽頭 賀茂保憲』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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