No.6 中村哲也『魔街の坂』

榎本海月の連載

中村哲也『魔街の坂』(KADOKAWA、全2巻、2014)
初出:『Fellows! 』のち『ハルタ』(2011〜2014)

破滅した村と鎧の男

ある村が、突如として破滅した。住人がみな、化け物に変わってしまったのだ。残されたのは教会に住んでいた子供たち5人だけ。育ててくれた大人までが怪物となって子供たちを襲い、絶体絶命の危機となったとき――現れたのは1人の戦士だった。特別な力と独自の意思を持つ鎧と武具を身に纏えるように育てられた、自らもまた化け物と恐れられてきた男、イェーガーである。
鎧の宿命に導かれてその村を訪れたイェーガーは、行き掛かりから子供達を救うことになる。怪物たちを倒すことで鎧たちの目的は果たされる。それだけでよかったはずなのに、子供たちとの暮らしは磨滅していた彼の人間性を蘇らせていく……。長い坂を持つ村を舞台に、激しいアクションと人間の尊厳を描く物語。

バランスの良い作品

この作品は特に長編小説(ライトノベルの新人賞に送るような一巻完結作品)を書きたい人に読んで欲しい。単行本2冊分できっちり終わる物語で、その中に読者の興味を引き続けるアクション・バトル(特にこの作品の場合、怪物が多様で奇想天外な戦い方をしてくるし、イェーガーも戦闘の選択肢が多いので、最後まで飽きずに楽しめる)を入れているのが著者のテクニックを感じさせる。
また、キャラクターとストーリーにおいても、イェーガーの成長と変化、子供たちとの触れ合い、鎧たちの過去など、派手ではないけれど心に染みる物語が丁寧に描かれいる。人情の機微が描きたい人は、この物語でどんな段階を経てキャラクターたちの気持ちが変わっているかを考えてみるといいのではないか。

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『魔街の坂』 honto 紀伊國屋書店


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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