常識としての神話
ここでいう「神話」は、これまで本連載およびそのルーツである『物語作りのための黄金パターン』で扱ってきた意味の神話とはちょっと違う。
これまで扱ってきたのは「神々の物語・その世界のあり方を紹介するための物語」であった。対して、ここで紹介するのは「ごく当たり前、常識的すぎて、疑いようもなくなったこと」の意味である。「安全神話」とか「不敗神話」といった意味で使われる。原発の安全神話とか、読売巨人軍の不敗神話、みたいな形で聞いたことがあるのではないか。
人間なら安全も不敗も絶対ではないけれど、しかしこの案件については絶対である。ゆえに人間ではかなわない「神」の文字をつけた――ということだが、結局人間のやることである。「常識」としての神話はいつか崩れ去る時が来る。「神話の崩壊」である。
崩壊が招く悲劇
神話は崩壊する。崩壊するとどうなるか。多くの場合、単に失敗するときよりも、神話が崩壊した時の方が衝撃も、被害も、甚大なものになることが多いようだ。
どうしてそうなるかというと、皆「まさか崩壊することはあるまい」と思い込んでいるからだ。うすうす「まあそういうこともあるだろう」と思っていれば耐えることができても、当たり前のことが崩れればショックは大きい。呆然とするうちに拡大する事故や他者による侵略に巻き込まれてしまうかもしれない。まさかそんなことになるとは思っていなかったからリカバリーのための準備、あるいはプランBの用意などもなくて、被害がさらに拡大するということもあろう。
強い思い込みは破れた時の反動も甚大になりがちだ。愛が憎しみに、遵法意識が反逆心に、ガラリと姿を変えてしまうのもよくあることである。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。