第37回「相撲の話――神話と相撲節会の時代」

ファンタジーを書くために過去の暮らしを知ろう!

神話の時代は殴り合い?

私たちが古来の「伝統」だと思っているものも、歴史を遡ってみると「いま」「むかし」で結構違うというのはわりとよくあること。古来の伝統と思われているのに明治発祥、なんてことも珍しくない。
そうして大きく変わったものの一つに、「相撲」がある。素手の二人が行う試合形式の格闘技であり、組み合いによる投げ技や倒し技が重視され、神事としての側面が重視されるーーまでは古来変わらないのだが、他の面は少なからず変わっているのだ。
そもそも、最も古典的な相撲はもっと激しい殴り合いであったらしい。たとえば、『古事記』に記された神話としては、建御雷と建御名方という二柱の神が国譲りをめぐって激しい力比べをしており、これが相撲と見られるのだが、建御雷は相手の手を握って潰して投げたなんて話もあるので、かなり凄まじい。
また、『日本書紀』では野見宿禰と当麻蹶速という二人の男が力比べをしており、これこそ相撲のルーツとして取り上げられる。しかしこの時の決まり手も、「わき腹を蹴り折って殺害する」というものだったらしい。いくら伝説と言えどもとても現代の相撲と同じには考えられない。

儀式としての相撲

さて神話や伝説はともかく、史実における古代の相撲は儀式としての側面が強かったようだ。今でも様々な祭りで「なんらかの勝負が行われ、その結果で来年の豊穣を占う」儀式が行われているが、相撲もまたその一種であったようだ。また、豊穣への感謝として神に捧げる相撲も盛んに行われていた。
やがて飛鳥・奈良時代から平安時代にかけての宮廷で「相撲節会」と呼ばれるイベントが定期的に行われるようになり、ここで現在私たちが知る「相撲」のかなりの部分が確立した。しかし、一つ明確に違うことがある。「土俵」がないのだ。だから、「相撲節会」の時代の相撲に、押し出しはないのである。投げ、倒してしか決着がない。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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