美術家の生活と成功
美術家はいわゆる芸術家、クリエイターのうち、特に形のある芸術ーー絵画、書道、彫刻、陶芸などを専門とする人々の呼び名である。
美術家の収入の基本は、クリエイターとして作り上げた美術品を買ってもらう、ということになる。画廊のような専門の店に持ち込んで買ってもらう・置いてもらうこともあるだろうし、コレクターと直に取引をすることもあろう。
知名度の高い美術家の作品は数百万から数千万、数億という値段がつくことも珍しくない。人気のある品はオークション、つまり競り形式にかけられるため、さらに天井知らずで値が上がっていく。
しかし、名前も売れていない、評価もされていない美術家の作品が売れるはずもない。そこで展示会・作品展などを開く、コンテストに応募する、自ら画廊に持ち込むなどの売り込みが必要になる。時に自腹で小さなギャラリーを借りて個展を開くということもあろう。そのため、成功のためにはクリエイティビティだけでなくコミニュケーション能力や戦略性なども必要なのが実際のところだ。
そうして大きな成功を遂げるまではバイトで生活費を稼いだり、コミュニティスクールのような場所で素人を教えたり、そして実家や伴侶の金で暮らしたりする。……実際のところ、売り込みで有利という点も含めて、「家が裕福だったり配偶者が裕福だった方が美術家として有利」であったりするのだ。
物語の中の美術家
物語の中の美術家はどんな存在として登場するのだろうか。
一番わかりやすいのは、その「堅気でなさ」に着目することだろう。美術家は独自の視点や価値観があってこそ人の心を揺り動かすような作品を作ることができる。もちろん技術も必要なのだが、それ以上に特異な雰囲気や切り口を用意できなければ美術家として評価されることはない(特に現代美術の世界ではそうだ)。
結果、美術家のステレオタイプは「なんか変な人」になりがちだ。常識に縛られてず、人から見て変と言われるくらいでなければ作品が作れないのである。あるいは、そのようなキャラクター性に基づく強い感受性によって、普通の人には見えないようなもの、聞こえないようなことを感じ取ってしまって事件に巻き込まれることもあるだろう。
一方で美術家の世界にはドロドロした情念が渦巻がちでもある。美術の大家や世間に認められたものは栄光に包まれ、そうでなければ苦しい生活と屈辱を友にすることになる。そこに盗作やえこひいきなどの疑いが絡めば、揉め事や事件も起こりうる……。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。