ウィリアム・シェイクスピア・作『ロミオとジュリエット』
〈あらすじ〉
イタリアのヴェローナという街に、モンタギューとキャピュレットという対立する二つの名家があった。ある日、叶わぬ恋に悩むモンタギュー家のロミオは、キャピュレット家の舞踏会に忍び込む。そこでキャピュレット家の令嬢・ジュリエットと運命的な出逢いを果たし、二人は一目で恋に落ちる。しかし互いに敵同士の家の子であることを知ってしまう。
それでもロミオとジュリエットはロレンス神父の助けを借り、ひそかに二人だけで結婚式を挙げる。だがその日、両家の争いからロミオの親友・マキューシオが命を落とす。親友を殺された憎しみからジュリエットのいとこであるティボルトを殺害してしまったロミオは、ヴェローナを追放される。
そんな中、ジュリエットはパリスという貴族と結婚させられそうになる。それを回避するため、ジュリエットはロレンス神父から仮死状態になる薬をもらい、死を偽装する。
その後ジュリエットはロミオと一緒になるはずだったが、ロレンス神父からの手紙がロミオに届かなかった。そのためロミオはジュリエットの死を信じ、絶望してジュリエットの墓で服毒自殺をする。仮死状態から目覚めたジュリエットはロミオの死に悲しみ、短刀で自殺する。
モンタギュー家とキャピュレット家は、家の対立が子供たちの死を招いたことにひどく悲しみ、和解する。
シェイクスピアの恋愛悲劇
ウィリアム・シェイクスピア作『ロミオとジュリエット』。これは小説ではなく戯曲です。少し迷いましたが、クリエイターを志すものとして避けては通れない作品の1つであると思い、今回ご紹介させていただきます。
この作品がつくられたのは1595年ごろといわれています。この原稿を書いている現在は2020年。400年以上も前に書かれた作品ですが、現代でもなお上演されているシェイクスピアの名作中の名作です。詳しいストーリーを知らない方でもタイトルは知っているでしょうし、「ああロミオ、あなたはなぜロミオなの」というバルコニーのシーンを連想することでしょう。あ、訳によっては多少細かいところが違うかもしれませんが、ご了承ください。
このバルコニーのシーンは二人が出会った舞踏会の夜に、ロミオがジュリエットの部屋を探し当ててジュリエットの独り言を聞いてしまう、というものです。うん、あらためて書くと夜這いに近いですし、舞踏会もですが不法侵入だし、つまり覗きや盗聴という犯罪のオンパレードなんじゃ……なシーンなのです(身もふたもない)。ロマンチックなシーンとして有名なはずですが、疑問符をつけたくなっちゃいますね。まあ、恋人だから許されるってことでしょうか。あ、この夜はまだ清い仲ですよ。念のため(誰も聞いてない)。
ちなみに「ああロミオ、あなたはなぜロミオなの」というのは、彼がモンタギューの息子と知ってしまったためのセリフなのですが、「家なんて関係ないわ。その名を捨てて私を愛して」という心境からのセリフです。何度も言いますが独り言です。ロミオは忍び込んで聞いていて、ジュリエットが一人語るロミオへの想いに耐え切れなくなって姿を現すのです。……うん、ロマンチックとは。日本の古典作品でも垣間見(のぞき見)は恋愛の重要な手段でしたが、それに近いのでしょうか。それとも「恋の前にはそんなの関係ない!」というテンション? まあ、ジュリエットが怒ってないからいっか。
紳士諸君へ。たとえ恋人同士でも、同意がなければただの犯罪ですからね!!
若すぎる恋人たち
ロミオとジュリエット、この二人、いったいいくつだと思いますか? 実は作中で「まだ14歳にもならない」とキャピュレット夫人(ジュリエット母)が言っているのでジュリエットは13歳。14歳になる直前のことのようです。現代なら中学生くらいなのですよ。ええ、犯罪のかほり……!
とはいえキャピュレット夫人は「ジュリエットより年下で母親になっている人もいる」といい、自分もジュリエットの年齢にはジュリエットという子があったと言っているので、それがその時代のスタンダードだったのでしょう。でも15歳にもならないうちに出産ってリスク高そう……。心配になっちゃいます。
内容には関係ないですが、つまりこのときキャピュレット夫人って26~8歳ってことになるんですよね。もしキャピュレット夫人と同じくジュリエットにも13~4歳で子供がいたとしたら、キャピュレット夫人は20代でおばあちゃんになっちゃうの? この時代ってそういうことも普通だったの? うそん……。
ショックを受けましたが、話をメインカップルに戻しましょう。ジュリエットのお相手・ロミオはどうやら16~7歳というのが定説の模様。現代に当てはめると、中学生と高校生の世間知らずカップルというわけです。
現代では「アウトー!」な年齢のためか、現代の作品ではジュリエットの年齢を示すセリフがカットされていることも多いです。明確に年齢を言うことはありませんが、もしかしたら設定年齢を引き上げている場合もあるかもしれません。
二人がなぜ出会ってすぐ恋に燃え上がり、翌日には結婚し、そして命を落とすに至ったのか。それは若すぎるゆえに視野が狭く、その恋に突き進んでしまったということなのでしょう。もしこれが二十歳すぎの若いけれど大人というべき年齢だったなら、物語は説得力に欠けるのかもしれません。
そしてこの物語、とってもスピーディに事が進みます。出逢った翌日には結婚してしまうのですが、ロミオがティボルトを殺してしまうのは同じ日。さらに翌日ロミオは追放され、その次の日にジュリエットが仮死状態になり、その次の日に二人は別々に死んでしまいます。つまりこの物語、ロミオとジュリエットが出会って5日間ですべてが終わってしまうんですね。
もしこれが何日も何週間もかけて育まれた恋だったなら、もう少し冷静に進んだのでしょうか。二人が死ぬことはなかったのかも……なんて思ってしまいます。
ぶっちゃけロミオってチャラい?
あらすじでも少し触れていますが、ロミオは物語の冒頭で別の女性に恋しています。それが割とガチで真剣に恋を語っているのです。そしてその女性が振り向いてくれないと悩み、仲間たちがロミオを元気づけるためにキャピュレットの舞踏会に連れ出すのです。
ロミオの最初の想い人よりも美人がキャピュレット家のパーティに来るよ! ってんでその舞踏会に忍び込むのですが、だからってなんでそこで敵の家に乗り込むんや……! まあ敵の家とはいえパーティだし、美人も来るし楽しもうぜ! ってことなんでしょうが。会えば殺し合い始めちゃうくらい犬猿の仲なのによく行ったよ。ロミオだって最初は乗り気じゃなかったくせにね。
そしてそこで出逢ったジュリエットに一目ぼれしてあっさり最初の女性のことを忘れちゃうロミオ。うん、チャラくね? て思うわけですよ。
ロミオがジュリエットのいとこを殺してしまうのは、仲間を殺されたからです。このときロミオは明確な殺意を抱いています。急展開ですが、はずみとは言えません。そして追放が決まりジュリエットと離れなければならないと嘆き悲しみ、ジュリエットが死んだと聞いてすぐさま後追いを考える。うん、わからなくもないけれど、ちょっと直情的過ぎやしませんかねロミオさん……。
まあ、死んだと聞いて「信じられない」「嘘でしょ」というセリフはありがちですが、とはいえそれは「信じたくない」「夢であってほしい」という表れであって、本当に生きているとは普通思いません。恋人(てゆーか妻か)の死に絶望するのはわからんでもない。
でもやっぱり、ロミオがいい男かどうかはちょっと疑問です。ぶっちゃけ私の好みじゃありません(お前の好みは聞いてない)。
悲しいばかりではありません
『ロミオとジュリエット』は悲劇として有名で、二人が死んでしまう結末もよく知られています。何が切ないって二人がすれ違ったまま死んでしまうことです。ヴェローナを追放されたロミオは、もう生きている(というか起きている)ジュリエットに会うことはありません。そしてジュリエットも、息絶えたばかり、まだ温かいロミオの傍らで仮死状態から目を覚ますのです。それは心中とはいいがたいでしょう。二人が一緒にではなく、別々に死んでしまうところにこの物語の悲劇たる理由があると思っています。
ですがこの作品、結末は悲劇ですが、そこに至るまでは結構「ぷっ」と笑えるセリフが多い。めちゃくちゃ多い。ぶっちゃけ下ネタとかお下品な言葉も多いのですが、400年以上経った現代の我々でも笑えちゃうセリフ運びってすごいと思いませんか? シェイクスピアが今なお天才といわれるのも納得です。
ちなみに私、ジュリエットの乳母のハイテンションっぷりが結構好きです。笑えます。
あとマキューシオ。やんちゃですし中盤で死んじゃうけど、友達思いという点ではいいやつです。
二人はなぜ恋に落ちたのか?
ロミオとジュリエットは互いに一目ぼれ、翌日結婚、自殺まではたった5日間という超スピード恋愛です。正直なぜ二人が恋に落ちたのか、謎です。
一目ぼれで命までかけた、それがつまり運命ということなのでしょう。ただし現代で受け入れられない部分があるとしたら、「どこに惚れたのか?」は結構重要な部分である気がします。顔がめちゃくちゃ好みなのかもしれないし、けれどそれだけで命をかけるって薄っぺらい気もしちゃいますし、でもお互いの性格もなにも知る時間はなかったはずだし……。
うん、謎です(二回目)。
それに実は、モンタギューとキャピュレットが争う理由も作中では明確にされていません。どうやら宗教の派閥が関係しているという話を聞いたこともあるのですが、作品のストーリーには関わってきません。ですので設定を作りこんだものがお好き、という方にはこちらも物足りない部分かもしれませんね。
上演されまくりメディアミックスされまくり
『ロミオとジュリエット』は世界の名作です。それこそ世界中で上演されていますし、メディアミックスやらリメイク作品やらがめちゃくちゃ沢山あります。
有名どころではミュージカル『ウエストサイドストーリー』。舞台を現代アメリカに移した作品ですね。もとはブロードウェイミュージカルで、映画化もされました。
あとはレオナルド・ディカプリオさん主演の映画なんかも有名でしょうか。若き日のディカプリオ、めっちゃ格好良かった記憶があります。
日本だと故・蜷川幸雄さん演出の舞台がよく知られていると思います。私は藤原竜也さんと鈴木杏さん主演のものをDVDで観ました。ほかにも佐藤健さんと石原さとみさん主演のものや、小劇場で上演されたものも観劇したことがあります。舞台に詳しくない私でもこれだけ触れたことがあるのです。てゆーか私にしては多かった。自分でびっくりだわ。
これ以外にも数えきれないほど上演されているでしょうし、リメイクやオマージュ作品も入れると星の数ほどになるかもしれません。きっとあなた好みの作品があるはずなので、触れてみてくださいね。

【執筆者紹介】粟江都萌子(あわえともこ)
2018年 榎本事務所に入社。
短期大学では国文学を学び、資料の検索・考証などを得意とする。
入社以前の2016年に弊社刊行の『ライトノベルのための日本文学で学ぶ創作術』(秀和システム)の編集・執筆に協力。