ネットワークを自在に操る
ハッカーという言葉は変遷を経ている。もともとは単にコンピューターに精通し、熱中し、それらが作り出すネットワークについて技術と知識を持つ人、という意味だった。しかし、やがてネットワークシステムに不正侵入し、悪用するような人をこそハッカーと呼ぶようになったのである(本来はクラッカーという呼び名だった)。
現代、ハッキング(ハッカー行為)で原理的に可能なことは驚くほど幅広いものになっている。インターネットによってやりとりされる大量の情報を盗み見ることはもちろん、銀行のネットワークに侵入して預金のデータを書き換えたり、運輸・流通・交通会社のシステムに介入することで電車を止めたり流通を阻害したりと社会に深刻なダメージを与えることだって不可能ではない。もちろん、政府や企業、個人の抱えている秘密を盗み出し、しかるべき相手に売ることで莫大な金を得たり、他社の信用を貶めることだって。
近未来にはこの範囲はさらに拡大する。車がすべて自動運転されるようになっていれば、あらゆる車がハッカーの操作で暴走するかもしれない。いや、人間が身体を機械化し、脳をコンピューターに接続している世界なら、もっとすごいことができる。人間の動き、思考、価値観、記憶――すべてを自由に操作できる可能性があるからだ。
異常なハッキングとソーシャルハッキング
もちろん、そんなに簡単に操作できるようなシステムが普及するはずがない。危険すぎる。現代でも、近未来でも、厳重なプロテクトによって各種システム・ネットワークは守られている。大規模なハッキング、致命的なハッキングはできないようになっている、という方が普通だろう。しかし、何かしら超常的な能力、信じられないほどの天才、あるいはとてつもない技術革新(量子コンピューターがそのような介入を可能にする、ともいう)が、そのような異常なハッキングを可能にするかもしれない。
なお、ネットワークやコンピューターを使わないハッキングというものもある。ソーシャルハッキングというもので、パスワードを知っている人に電話をして聞き出したり、メモを盗み出したりすることだ。厳重にプロテクトされたネットワークより、ときに人間のほうが手薄なことがある。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。