◆17回「「凶悪」な敵」

榎本海月の物語づくりのための黄金パターン キャラクター編+α

被害を撒き散らす存在

 物語の緊迫感を高め、危機感を強調し、スケールを大きくするためには、敵の強さや恐ろしさが重要だ。そのために凶悪な敵を登場させるのは非常に良い選択肢である。
 凶悪な敵とはどんな存在であろうか。ここでは、恐ろしい敵と定義する。その恐ろしさは二つのパターンによって表現される。
 一つのパターンは、もたらす被害が非常に大きいケースだ。個人なのか組織なのかはともかく、凄まじい戦闘力や権力、破壊力を持っていて、放置すると周囲に絶大な被害をもたらすキャラクターである。人が数百人、数千人、数万人と簡単に死ぬのかもしれない。村が焼かれ、街が滅び、大陸が沈むのかもしれない。
 このような敵を演出する時、創作者であるあなたは躊躇してはいけない。あっさりと人を殺し、当然のように街を滅ぼそう。凶悪な敵にとってそれはごく当たり前のことで、罪の呵責に悩むことなどない。主人公が彼と敵対し続けるなら何度でも同じことをやる。これほど恐ろしい存在はそうそうない。

なにをするかわからない

 もう一つのパターンは、なにをするのかわからないケースだ。にこやかに会話をしているヤクザが、突然殴りかかってきたら誰だって怖いに決まっている。「こいつはなにをしでかすかわからない」と思ったら恐怖に縛られ、ちょっとした動きにもビクビクするようになる。
 他人にも理解できる理屈に則って行動しているキャラクターはどれだけ強くても「怖い」「凶悪」とはちょっと違う。その恐ろしさは理解可能、予測可能であるからだ。しかし、「なにをしでかすかわからない」「いつ攻撃してくるかわからない」相手は必要以上に恐ろしくなるわけだ。
 この二つのパターンは当然ながら組み合わせられる。非常ににこやかに話しかけてくるが、ちょっとしたことで突然凄まじい被害をもたらす異常者。実に恐ろしく、そして主人公が乗り越えるべき強敵としてふさわしい相手だ。

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【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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