第29回「時代で変わる霊の姿」

ファンタジーを書くために過去の暮らしを知ろう!

生者の世界・死者の世界

 霊、あるいは幽霊。死んで肉体を失ったにもかかわらずこの世界にとどまっている存在のことである。実はこれらの霊をどう捉えるか、というのにも「いま」「むかし」があるのをご存知だろうか。
 そもそも古くは生者の生きる世界と死者の世界はそんなに離れていなかったり、重なっていたり、という価値観が珍しくなった。日本神話でイザナギは死んだ妻を求めてあの世へ出かける(そして這々の体で逃げ帰ってきてこの世とあの世を隔てる)し、柳田國男は「死者は村の側の山の上にいるもの」だと主張した。自分は死者を含む一族に所属しているのだ、というのは決しておかしな感覚ではなかったのである。

足のない幽霊・ただそこにいる幽霊

 幽霊という話で言うと、私たち日本人はどうしても「足のない人間」をイメージしがちだ。あとは手を前にだらっと突き出せば完璧であろう。
 ただ、この「足のない幽霊」のイメージはかなり新しいし、誰がきっかけになったのかまでわかっている。江戸時代の絵師、円山応挙の絵が評判になったことが原因である。だから、あなたの物語の中で必ずしも幽霊の足を消す必要はないのだが、別に足がないことに拘らなくともいいだろう。
 そして、もうひとつ、現代人には意外なことがある。「何もしないし普段は特別な能力者や写真以外には映らないけれど、そこにいる幽霊」と言われても特に違和感をもたない人が多いだろう。しかし、これもまたかなり新しい概念なのである。
 元々幽霊というのは「何かをしてくる(ものを動かすポルターガイストだったり、メッセージを伝えてきたり)」ものか、そうでなければ「先祖の霊」的な縁で繋がっているだけだった。これは当然で、見えないし何もしてこないしつながりもない幽霊の存在など、誰かが主張しても「証拠がないから信じないよ」となるわけだ。
 しかし、写真の登場が事情を変えた。つまり写真の技術的な問題で心霊写真が撮られるようになり、「どうしてこんなことになるのか」の説明が必要になり、そこに霊能者という新しいオカルト業者が現れて「何もしない霊がいるのだ、私には見えるのだ」とやったわけだ。技術が価値観を変える一例として面白いのでは、と思うのだがいかがだろう。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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