安全んな食べ物を求めたのは
「いま」と「むかし」で大きく変わったものの一つに、「食の安全性」への意識がある。
そもそも賞味期限や消費期限について厳しくみるようになり、食品にどんな材料が使われているかを確かめ……というのは非常に最近の文化で、ふた昔くらい前までは食の安全性への意識は決して高くなかった。今のように強く意識されるようになったのは戦後以降、いくつかの事件や市民運動などによって世論と企業の意識が変わった後の話なのである。
果たしてなにを食わされるのやら
特に食の安全性が危うくなるのは都市部だ。食糧が生産される農村と違い、それが運ばれて消費される都市においては、鮮度の低い食材、質の悪い食材、さらに言えば粗悪な混ぜ物が入った食材が使われている可能性が高いからだ。
例えば、香辛料やお茶のような遠隔地からもたらされる嗜好品などは時に凄まじい量の混ぜ物が入ったという。量が多ければ多いほど儲かるし、希少な品ということで真贋を鑑定できる人も少ないしということで、そうなってしまうのはある程度仕方がないのだろう。もしかしたら、遠くアジアまで出かけて本物の香辛料やお茶に出会い、「私がこれまで口にしてきたものはなんだったのか」と愕然とする人などもいたかもしれない。
一方、パンやワイン、ビールのような生活必需品の類にも粗悪な混ぜ物が入ることはあったようだが、このような品々の質は人々の生活と不満に直結するものであるため、役所が厳しくルールを定めてその質を管理していた。
特に産業革命の時代のロンドンなどは、人口が増えるわまともな食材はないわ……で大変だったらしい。おそらく、いま有名な「イギリスの飯は美味しくない」伝説のルーツはこの辺りにあるのではないか。
だから、「いま」の人が「むかし」の世界に行くことになったら、食べ物で困ることは多いかもしれない。現代人の感覚だと腐りかけの匂いがする肉や野菜を口にする機会が少なからずあると考えられるからだ。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。