時代で変わる宝石の価値
迷宮の奥深くに眠っている財宝といえば、どんなイメージだろうか。魔法の道具、工芸品、金貨、そしてなによりも宝石ではないか。ルビー、サファイヤ、オニキス、ガーネット……主に地の奥深くから掘り出される(真珠のように生物から生み出されるものもあるが)それらの宝石は、金銀のような貴金属と共に古くから人々に価値を見出され、高く取引されていた。価値はあるのに小さくて軽い、ということで非常に便利な存在でもあったはずだ。
ところが「いま」と「むかし」では価値が大きく違う宝石がある。それがダイヤモンドに代表される、比較的透明な宝石たちだ。これらの石が珍重されるようになったのは近世になってから、と聞いたらあなたは驚かれるだろうか。
透明な宝石を輝かせる方法
どうしてか。透明な宝石は的確に平面を組み合わせた形のカット加工を行い、光がうまく宝石の中に入って反射するようにしなければ、真に美しく見えないのである。しかも、ダイヤモンドにはダイヤモンドの、ルビーにはルビーの、エメラルドにはエメラルドにふさわしいカットの形があって、ダイヤモンドでよく知られるブリリアントカットを他の宝石に当てはめてもうまくいかないのだ。さらにいえば、宝石は多くの場合、非常に硬いものだ。硬いと言うのは加工が難しいと言うことで、進んだ技術がないと望むような形にできない。ダイヤモンドなどは特にそうだ。
結果、中世まで、宝石といえば色の濃いものを丸く磨いたファボションカットにして、金や銀などをサポートする形で宝飾品に配置するのが主であったという。やがて近世以降に平面を組み合わせたカットが発明され、宝石を加工する技術も進歩し、透明な宝石が評価されるようにあっていったのだ。なお、ダイヤモンドのブリリアントカットにいたっては、20世紀初頭になってようやく発明されたものである。
もしあなたの世界に宝石の形を加工する魔法や特殊な能力があれば、このような事情は大きく変わるかもしれない。ただ、そのような能力の使い手がカットの技術を見つけることができるか、理解しているか、と言うとまた話は別であろうが……。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。