◆11回「派遣社員(契約社員)」

榎本海月の物語づくりのための黄金パターン キャラクター編+α

非正規雇用

近年、ニュースを見ると派遣社員や契約社員という言葉を見ることが多くなった。これは正社員に対する非正規雇用者の一種である。
派遣社員は派遣を専門とする会社と雇用の契約を結び、そこから現場の会社に派遣され、指示を受けて働くことになる。一方、契約社員は契約した会社で働くのだが、契約期限が区切られていて、期限が切れるともう一度契約できなければその会社を離れることになる。そのため、企業や役所で同じように働いていても、実は所属する企業が違ったり、契約が違ったりするわけで、これは現代日本においてはもはや日常の風景と言えるだろう。
もちろん契約が違えば待遇が違うわけで、その待遇は給料だけでなく休日や勤務時間、さらには会社の中で使える施設にまで及んで、「せっかく立派な食堂があるのに派遣社員だから使えない」という話はよく聞く。受け入れ企業側からすると「うちの社員のための施設だ」「運営のための金を出していない」というわけで一つの正論だが、一方で団結感を大いに損なう判断ではあろう。

厳しい待遇

派遣社員や契約社員がニュースに、ひいては物語に主役としてその姿をあらわす時、焦点が置かれるのはその待遇と貧困問題であろう。「失われた30年」と呼ばれる長い不況と、派遣が他分野でできるようになった法律改正を受けて、企業は積極的に派遣社員・契約社員を活用するようになった。
というのも、簡単に首にできない正社員と違って、派遣社員・契約社員は比較的楽に、あるいは短期間で整理することができるからだ。企業にとって最も大きなコストである人件費を、状況に合わせて整理できるメリットは大きいのだが、逆にいえば長く安定した社員生活ができないということで、労働者側としては決して楽ではない立場ということになる。
特に2008年には大不況を受けての派遣社員が一気に契約打ち切りを通告される「派遣切り」があって、住居を失った人が多数出るという騒ぎがあって大いに注目された。その後、非正規社員の問題は繰り返し俎上に登り、同一労働同一賃金(同じ仕事をしているのなら同じ賃金であるべき)を進めようというムーブメントも盛んだが、今でも彼らの待遇は決して安定したものではない。そのような困難さ、不満、対立などは現代の深刻な社会問題として物語のメイン、あるいは主人公や敵役が追い詰められている事情として活用できるだろう。

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【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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