信仰の酒としてのワイン
ビールと並び、ヨーロッパにおいて一般的だった酒がワインだ。麦を原料としたビールに対して、ワインの原料はぶどうである。酒を作るための決め手は糖分なので、甘いワインは原料として大いに適していた。
「いま」は日本でもすっかり定着し、コンビニでも数百円のワインが気軽に買えるようになって、西洋ではもちろん生活にすっかり浸透したワインであるが、「むかし」のワインは非常に宗教的な存在だった。
つまり、あたかも人間の血液のように鮮やかな赤い色をしているワインに対して、信仰心深く迷信を強く信じたかつての人々は、特別な意味合いを見出したのである。
たとえば古代シュメールの人々は「神はワインを土に混ぜて人間を作った」と考えたし、エジプト神話においてワインは「人間の血を狙う神を騙すためのもの」であったという。ギリシャにおいてワインは収穫の神ディオニュソスの血であり、これに酔うことで神の祝福たる方策が約束されると考えられた。
このような神秘性はキリスト教においても継承され、ワインは「キリストの血」であると定義された。結果、ワインはキリスト教の儀式においても使われ、また各地の修道院で盛んに生産されることになるのだった(ただ、修道院は宿泊施設としての機能を持っていたので、客を歓待するためにワインを作る必要があったのだともいう)。
ワインの飲み方
もちろん、ワインは単に宗教的な存在であるだけでなく、美味しい飲み物でもあった。特にぶどうを元々産しない地域で大いに珍重されたようで、たとえばいまワインの本場であるフランスなどはもともとはビールの方が一般的な地域で、珍重されるが故に持ち込まれ、味に工夫がなされたという。
さらに古代のローマ帝国でも非常に高値で取引された。このころのワインは非常に濃度が高い液体であったようで、そのまま飲むということはしなかった。それは下品な行為であったのだ。その代わりに水、ビール、海水、蜂蜜酒などの割ものを入れ、あたかも「いま」の私たちがウィスキーや焼酎の水割りを飲むようにして飲むのが作法であったとされる。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。