進んだ技術と保存食
現代の進んだ文明は食べ物を保存する、という点でも大変な恩恵をもたらしている。月単位どころか年単位で食品を保存することで、私たちの生活は「むかし」とは比べられないほど豊かになった。
近代的な保存食の先駆けとなったのは瓶詰めである。これは便利な保存食を求めていたナポレオンの募集に応じて発明されたもので、食物を入れたガラス瓶を密閉し、そして加熱することで殺菌する。
ただ、ビンは重いし、ガラスは透明だから光による劣化は進むし、衝撃で割れることもあるし、と問題もあった。そこで発明されたのが缶詰である。原理はほぼ同じだが、金属製なので衝撃に強いし、光による劣化もない。また、この缶詰はもともと完全に金属で覆われていて缶切りがなければ開けられなかったが、やがてプルタブがついて缶切りなしでも開けられるものが普通になった。
冷蔵庫や冷凍庫が発明されると、食品はより簡単に保存できるようになった。温度を下げるのは腐敗を防ぐための最も単純でわかりやすいやり方であるからだ。特に冷凍食品(いわゆる冷食)は短時間の調理で凝った料理を出すための非常に重要な助けとなり、保存食云々という領域を超えて、家庭に縛り付けられていた主婦が社会で働けるようになるためのキーアイテムとなった。
また、外気と接しないことが腐敗を防ぎ保存するための要点であるため、真空パックやレトルト食品などの保存法も大いに広まっている。
ただ、これらの保存法も細かい事情はいろいろで、温度や真空では防げない細菌や腐敗などもあるので注意。そのような盲点は事件を起こすための要素にもなるだろう。
「むかし」の保存食はどうなったか
干物、漬物、発酵食品など、「むかし」からあった伝統的な保存食も今でもあって、食卓で人々に親しまれている。ただ、そのような伝統的保存食も「いま」は少なからず姿を変えている。
どういうことかといえば、まさに先ほど触れたような事情ーー技術の進歩によって、無理に保存しようとしなくてよくなった結果、調理法や味が変わったのだ。わかりやすいのは塩漬けで、「いま」も残る塩漬けの多くは昔ほどしょっぱくない。その代わり、冷蔵庫に入れなければ腐ってしまう。もともと保存食であるにもかかわらずだ。この辺、ちょっと面白いところである。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。