◆5回「羊飼い」

榎本海月の物語づくりのための黄金パターン キャラクター編+α

神話や伝説に姿を残す

羊飼いは文字通り羊を飼う職業である。たくさんの羊を飼い、そこから得られる羊毛、羊乳、そして肉で生活をする。
どうして羊飼いを特別に紹介するのか。そこにはいくつかの理由がある。
ひとつは、羊が山羊と並ぶ最古の家畜であること。馬や牛よりも遥かに長い時間を人類とともにして来たこの家畜は、様々な物語にその名前を残している。
そう、神話や伝説の中にはしばしば羊や羊飼いが登場するのだ。特に聖書神話ではその傾向が顕著で、人々を羊に、唯一神あるいは人々を統率する王は羊飼いに例えられる。また、イエス・キリストが善き羊飼い」と呼ばれることもある。彼は神の言葉を預かる預言者として、人々を導くことを期待されていたわけだ。
これは、聖書神話の原型になった物語を語ったユダヤの(あるいはさらに古い)民たちにとって羊が身近なものであっただけでなく、野生でも家畜でも羊たちは集団で行動し、リーダーあるいは羊飼いに導かれる習性を持っていたことから来ているのだろう。「羊のように偉大な指導者に導かれて幸福な生活をしたいという願望があったに違いない。
一方で、イエス・キリストは羊あるいは子羊に例えられることもある。このときに羊が持っているイメージは贖罪のために捧げられる生贄としてのそれだ。キリストもまた、人間の原罪を背負って死ぬ生贄として、十字架にかけられて死んだのである。

共同体から距離を置く

もう一つ、古代や中世世界における羊飼いの重要な位置についても確認したい。羊は大量の草を食べるから、たくさんの羊を飼おうと思ったら町の近くにいつもいるわけには行かない。周辺の草などすぐに食い尽くしてしまうからだ。
そのため、遊牧(あちこちを移動して草地を探す)や移牧(定期的に草地を往復する)、あるいは町から少し離れたところにある牧草地に毎日出かけるような生活をすることになる。結果、共同体からは少し離れたポジションに立つことになるし、荒野や自然と普段から接することで何らかのインスピレーションを受けることもあろう。そもそも、動物を殺し、解体する職業は、それだけで(匂いや殺傷のイメージから)遠ざけられる傾向にあった。
羊飼いに何かしら特別なイメージが付きがちなのは、そのような特殊な事情も関係しているのだろう。

☆本書の詳細は上記表紙画像をクリック

【購入はこちら】 Amazon honto 紀伊國屋書店

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

↑こちらから同じカテゴリーの記事一覧をご覧いただけます
タイトルとURLをコピーしました