第17回「私たちの知らない暗闇の世界」

ファンタジーを書くために過去の暮らしを知ろう!

暗闇が当たり前

「いま」、私たちの住む現代社会の夜は明るい。街灯は一定の間隔で設置されて道を照らしているし、コンビニのような24時間営業の店もあちこちにある。そうでなくとも都市部ならネオンの看板が明々と輝いている。もちろんあちこちに暗い場所はあって、恐怖や警戒すべき場所はあるのだけれど、絶対的な暗闇を夜に見出した経験のある人はあまり多くないはずだ。
だが「むかし」はそうではなかった。ガス灯や電灯が当たり前になる前、夜は暗いのが当たり前だった。もちろんそれ以前も焚火の炎があり、松明や油を使ったランタン・灯籠の明かりはあったものの、これらは貴重な消耗品を使ったものであって、「いま」の明かりのように無尽蔵に使えるものではなかった。
だから「むかし」の人は日が落ちれば早めに床に入るのであり、日が上がればさっさと起き出して働き始めるのである。夜になってからが1日が本番……なんて人も「いま」は珍しくないけれど、「むかし」にこれができたのならば余程の贅沢だ(織田信長には、「城下町の家々に灯りをつけさせて、城の上から夜景を楽しんだという贅沢のエピソードがある。それは贅沢であったのだ)。

闇夜の世界

人家から離れた荒野や山林ではいよいよ明かりなど(自分で持っていなければ)ない。それでも満月の日には月明かりと星明かりでなかなか明るかったろうが、新月に近づくにつれて月の明かりも失われていく。慣用句で「一寸先は闇」というけれど、確かに一寸(約3センチ)先ほども見えない暗闇というが、かつてはそのような暗闇はごく当たり前に人間の周りにあったのである。
だからこそ火や木や油といった明かりを生み出す素材は必要かつ重要であったし、近代になってガス灯や電灯が発明されて夜の闇が切り裂かれたことは、当時の人々にとって世界がひっくり返るような大事件であったはずなのだ。
ついつい忘れがちなことではあるけれど、近代以前の夜は暗い、ということも意識しながら描写してみてはいかがだろうか。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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