第15回「手紙は本人鑑定が必須」

ファンタジーを書くために過去の暮らしを知ろう!

手紙の価値

「いま」、手紙は通信手段として決して重要なものではなくなっている。手で書く手間、物理的に運ばれる時間を考えれば、電話やメール、SNSを使った連絡の方が便利になるのは当然だ。
しかしそのような手段がなかった「むかし」、遠隔地の人と意思疎通をするのに手紙を送る以上の手段はなかなか見つけられない。
伝達速度で言えば狼煙が勝った。しかし煙を上げるこの通信手段は伝えられる情報量が少ないし、何よりも「地点Aから地点Bの間に狼煙台をいくつも設置し、次々と煙を上げることで高速情報伝達をする」のが狼煙の真骨頂であるため、これを利用できるのは王や貴族のような権力者に限る。
事情を知った人間を送り込んで口伝えに伝えるという手段もあったが、これだと伝言ゲーム式に情報が歪む可能性もある。そういうわけで、長い間手紙こそが情報伝達の要を務めることになった。

手紙の問題

ただ手紙にも問題があって、はたしてこのA氏の名前が書かれた手紙は本当にA氏のものなのか? 実はB氏が偽って送ってきたものではないのか? という疑念がまとわりつく。そこでなんらかの形で証明したり、受け取った側が判断する必要がある。
第一に使われるのは印章すなわちハンコだ。この印章は誰それのものだとわかれば本人証明になる。インクをつけて手紙の本文に押すこともあるし、封筒を閉じた後に封印する形で蝋燭や溶かした金属を垂らし、そこに印章を押し付けることで封じた証明とする習慣も広く使われる。また、印章ではなくサイン(花押)を用いるケースもしばしばある。
判断できる情報は印章だけではない。重要なのは筆跡だ。はたしてこれを書いたのは本当にA氏なのかを確かめるために筆跡を鑑定する、というのはある程度の階級の人間にとっては必須のスキルであったはずだ。
逆に言えば、手紙を使って偽情報を掴ませようとしたり、相手を騙そうとするなら、この辺りを誤魔化す必要がある。祐筆(主君の代わりに手紙を書く人)を買収したり、その人が書いた手紙をいくつも入手して筆跡を真似たり、印章を偽造したり、といった工夫をすることになるわけだ。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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