外へ出てきた人々
自国や自地域では学べない技術を求めて留学するのは古今東西を問わず見られる普遍的な振る舞いである。日本だけ考えても、遣隋使・遣唐使に留学生や留学僧が複数随行し、中国で多くのことを学んで日本へ帰還して、日本の政治体制を形作り文化を発展させるのに大いに活躍したものだ。
留学生は何を求めて留学するのか。一つのパターンは、「他国・他地域の優れた技術や知識を求めて」であろう。学びたいことが自国や自地域で全て学べるなら、わざわざ留学する人は少ないだろう。貧しい国、教育が不十分な国であるからこそ、優れたものを求めて他国へ飛び立つわけだ。このようなケースでは、国そのものが留学を後押しすることも多い。優れた技術や知識を学んだ留学生が戻ってきて国を発展させることを望んでいるわけだ。ただ、先進国で学んだ留学生たちが国の方針に従うとは限らず、むしろ養った価値観に従って改革や革命、もしくは先進国の尖兵になって、反政府的活動に手を染めることもあるので痛し痒しではあるのだが……。
一方で、特に近年ではお金持ちの子弟の道楽や知的職業のセカンドライフとして、あちこちの国に留学しては渡り歩くという人も少なからずいるようだ。趣味であり、観光であり、勉強でもある……なんとも複雑な留学生のあり方だ。そのような立場のキャラクターは実に鷹揚で、独自のポジションを確立しているだろうから、青春ものなどで面白いポジションにいられるはずだ。
また、留学自体が目的では無い留学生というのもある種の社会問題として見逃せない。近代国家では多くの場合、労働のために入るのは難しいが学業のために入るのは容易いという事情がある。そこで、留学目的で入って働く、というケースがままあるのだ(留学先になるような国はしばしば先進国なので、発展途上国から入ってきて働く動機になる)。
ぶつかる価値観
物語のキャラクターとしての留学生はどんな存在だろうか。主人公として異国の価値観や新しい学問に右往左往させられたり、自分の国を豊かにしようという青雲の志に燃えたりというのは王道的展開だし(ある種異世界転生的でもある)、サブキャラクターとして異国の価値観や常識をぶつけてきて物語に動きをもたらす存在にもなってくれるだろう。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。