第12回「町の周りには壁がある」

ファンタジーを書くために過去の暮らしを知ろう!

町の境に何がある

「いま」、あなたの住む町の端には何があるだろうか?
こう問われるとキョトンとする人が多いのではないか。都市部に住んでいる人が町の端まで行けば、そこに待っているのは隣町だからだ。二つの町の境界には大きな道や川、山があってはっきり区切られているケースもあるだろうが、境界が溶け合ってわからないケースも多いはずだ。私たちの住む町は膨れ上がって人間の住める範囲の限りにまで広がってしまっているからこうなるわけだ。
しかし「むかし」はそうではなかった。都市や村落は荒野・草原・森林・山岳・砂漠と言った人間が定住できない広大な空間の中にポッカリと浮かぶ島のようなものだったのである。だから人が住める場所と住めない場所の間にはハッキリと境界線が引かれている。そこが現代の私たちが住む都市や町とは違う。
都市ではその境界線は多くの場合城壁の形をとった。壁でぐるりと都市を守ることにより、さまざまな外敵から自分たちを守ったのである。ちなみにこの点では日本は世界史的になかなか特異な存在で、城壁を持つ都市がほとんど見られない。強いて言えば戦国時代末期から江戸時代初期にかけての小田原城や江戸城が「総構」と言って、中心の城だけでなく周辺の町まで堀や土壁で覆ってしまったことはある。

壁のいいところ悪いところ

このような城壁は住人たちに安全を提供する重要な施設である一方で、困った存在でもある。つまり、都市の大きさを自動的に規定してしまうから、その範囲以上に都市が発展することを阻害するのだ。
それでも発展したければ、城壁の外にぐるりと新たな城壁を気付いたり、一部城壁を破壊して街を拡張してそこにもう一度城壁を築くしかない。
このような事情から、兵器の発展などから城壁が時代遅れになった近世以降になると城壁を持っていたヨーロッパの諸都市も相次いで壁を壊してしまった。そして都市は壁を超え、自由に広がっていくようになったのである。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

↑こちらから同じカテゴリーの記事一覧をご覧いただけます
タイトルとURLをコピーしました