◇12回「略奪愛」

榎本海月の物語づくりのための黄金パターン+α

奪い、奪われる恋

 二人の気持ちが相互に近寄って重なる恋もあれば、失われる恋もある。そして、奪い、奪われる恋もある。略奪愛である。恋人のいる人とただお付き合いをするだけなら浮気だが、相手が既婚者ともなればこれはもう立派な不倫だ。多くの社会において許されぬ恋であるが、タブーであるからこそやりたくなる、燃え上がる、というのも世の常である。
 社会的な禁止事項というだけではなく、「奪う」ということは奪われる相手がいるわけだし、また恋の相手にとっても多くの場合環境が変わるということだから、対立やトラブル、思いもよらぬ被害はつきものだ。「どうしても別れたくない」と意地になって攻撃してくるケースもあるだろう。それは多くの場合精神的だったり社会的な攻撃にとどまるが、切羽詰れば直接的な危害を与えてくる可能性もある。トラブルが続けば、恋の相手が怯えたり躊躇ったりで心構えをする可能性もある……「奪う」「盗む」というのは簡単なことではない。

奪う愛が真実の愛?

 このように問題のある振る舞いであるにもかかわらず、略奪愛(浮気、不倫)はしばしば大変にロマンチックな行動として物語の中で描写される。それは先述したように禁止されているからこそ燃え上がるということもあるが、それだけではない。
 時代や地域や状況によっては既婚の異性と交わす愛、道ならぬ愛をこそ真実の愛とみなすものもいて、その影響が今も残っているものと考えられる。
 どういうことかといえば、かつて結婚がほとんどお見合いや政略結婚など社会的事情で決められ、恋愛による結婚が非常に希少だった時代があったからだ。もちろんそのような結婚から恋愛が生まれることもあったろうが、生まれないことも十分にあった。そのようなとき、「真の愛」を浮気、不倫に見出すというのは自明の理であったのだ。その真の愛が極まれば、ただ密通するだけでなく、「奪う」という行為に至ってしまう。ここまですれば互いの社会的地位を大いに失うことになるが、それだけの犠牲を支払うということで、いよいよ真にロマンチックなものになる、というわけだ。

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【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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