第11回「食事の番外編――肥満の歴史」

ファンタジーを書くために過去の暮らしを知ろう!

肥満は金持ちの証!?

食事に関する話が続いたが、ちょっと番外編を。「いま」、食事をとりすぎることによって発生する肥満は好ましくないものとして捉えている人が多いだろう。つまり、不摂生な生活をしているからこそ肥るのであり、そこにはだらしなかったり我慢ができない性格が現れている、という考え方だ。生活習慣病も誘発するため、基本的には痩せていた方が良い、と思っている人は多いだろう。
しかし、肥満という状態には「むかし」「いま」の両面から、また別の意味合いがあることをここで紹介したい。
そもそもかなり最近まで、肥満は裕福さの象徴であり、そこにマイナスの印象は薄かった。つまり、太れるほど沢山の食料を入手することができる、また過酷な野外の活動に従事せずカロリーを消費しないで済むのは特別なことだったのである。
たとえばプログレッシブ英和中辞典では「fat city」という言葉に

1 裕福[快適]な状態
2 肥満,でぶ


と二つの意味があることが紹介されている。豊かさと裕福さは切っても切り離せない関係にあったのだ。

貧困層に見られる肥満

ところが「いま」、肥満は裕福な人のシンボルではない。むしろ、裕福な人は食事制限をしっかりして、週に何度かジムにも通い、体型を整える。これがある週のステータスであり、また「自己を律することができるちゃんとした人」のアピールにもなるというのは、冒頭で紹介したとおりだ。
一方で「いま」食事と体型について指摘されるのが、貧困層にこそ肥満者が多い、という点だ。「むかし」は金持ちしか太れなかったのが、「いま」は貧乏人こそブクブク太るようになった。なぜかといえば、安価に腹を膨らませられる食事が広まったからだ。それは炭水化物をたっぷり含んだもの、そしてジャンクフードのたぐいだ。
日々の飢えを凌ぐだけなら、そのような安価な食事は非常に適している。十分なカロリーがあるからだ。だが、炭水化物メインの食事は太る。これは炭水化物抜き(糖質カット)ダイエットの存在からでもよくわかることだ。かくして「いま」、貧乏人にこそ肥満が目立つ……。時代が変われば常識も変わるものだ。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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