第9回「「いま」「むかし」と食事」

ファンタジーを書くために過去の暮らしを知ろう!

多彩な「いま」の食事

「いま」と「むかし」の違いについて考えるとき、食事と食べ物はかなりわかりやすいポイントになる。
「いま」、特に日本の食文化が歴史上類を見ないほど多彩で、選択肢が豊富なことは言うまでもないだろう。和食洋食中華そのほか、実に多種多様な料理を味わうことができる。
しかもそれは単にそのような店が各地にあるというだけではない。例えば各ジャンルごとに安定した味のチェーン店があり、大衆向けの定食屋的な店があり、ちょっと高いお店があり、一見さまお断りの高級店がある。
あるいは、ネット上や書籍にレシピがあり、材料もスーパーや各専門店で購入できて、自分で作ることができる。目もくらむような多彩さだ……もちろん、料理の腕や財布の具合で取れる選択肢は広がったり狭まったりするのだけれど。
食材という点でもそうで、「いま」その気になって金と手間を掛ければ手に入らない食材はほとんどない。わかりやすいのは野菜や果物で、ハウス栽培や工場栽培のおかげで365日あらゆるものを入手することができる。この豊かさは科学技術のおかげ、文明の発達のおかげで、「いま」の誇るべきものと言えるだろう。

バリエーションに乏しいが旬があった「むかし」

では「むかし」はどうだったのか。
他国や他地域の料理など食べるどころか存在すらまず知らないだろう。それどころか、日々の食事にバリエーションをもたせるという発想すらかなり最近のもので、その日その日あるものを食べる、というのが「むかし」の基本的な考え方であったはずだ。その代わりにハウス栽培など不可能なので、自然と旬のものを食べていたことになる。
たとえば、江戸時代の食事を再現しようとすると、まず山盛りの玄米がどんと真ん中に置かれる。2合分だからお茶碗4杯だ。これに味噌があり、漬物があり、汁物があって、いい日なら申し訳程度の魚が出る。それで終わりで、毎日だいたいこのようなメニューが続く。栄養的に大丈夫なのかと思うが、玄米はビタミンが豊富なのでOKなのだ(なお江戸の住民は白米を好んだのでビタミンが不足し、脚気という病が流行った)。
また、戦国時代の農民たちがよく雑炊を食べていたという話も伝わっている。米や雑穀と野菜を煮込むことで栄養を余さず取り込むことができるわけだ。
これが中世ヨーロッパの住民でも話は似たようなもので、主食はパン、そしてキャベツやカブなどの野菜を煮込んだスープがついてくる(あるいは粥)。宗教上の理由で中世の頃にはあまり肉を食べなくなっていた日本と違い、ヨーロッパでは家畜を飼い、これを適切な季節に潰して塩漬けや燻製にすることで保存し、少しずつ食べた。ただ、人口が増えるにつれて庶民は肉を食べるのが難しくなり、結局はパンをたくさん食べることによって腹を満たした……というのは同じだ。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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