第8回「道具が簡単に手に入らなかった時代がある」

ファンタジーを書くために過去の暮らしを知ろう!

ものに満たされた「いま」

「いま」を生きる私たちは、便利な道具を安価かつ手軽に入手することができる。ちょっとした生活用品が100円で買える店もすっかり定着した。さらに言えば使い捨て、つまり一度使ったらそれで捨ててしまう道具も随分増えた。その筆頭は、今年皆さんも随分使っておられるであろう紙マスクであろうか。これらは再利用するよりも便利だったり、清潔さなどの理由で使い捨てるわけだ。また、「いま」においては無理にリサイクルするよりも使い捨ててしまった方がエネルギー効率的に有利、ということもしばしばあるらしい。
しかし、このような感覚はかなり最近になってのことだ。100円ショップや使い捨てがこの数十年の文化であることは言うまでもなく、文具や服のような品物を安価に購入し、複数種類身近に置いておけるようになったのが、産業革命後、工場で大量生産ができるようになった近現代の話であるわけだ。

物を大事にした「むかし」

それ以前、ちょっとした道具でも、あるいは現代における消耗品ーーたとえば紙であっても、職人が一つ一つ手作りをしていたわけで、とても「いま」のように安価に生産するわけにも、ましてや使い捨てなどできるはずがない。
服は今着ている1着だけの一張羅で穴が空いたら当て布をするつぎはぎだらけ、新しく買うにしても古着だったり、あるいは小さな布をパッチワークにしたり……などということもしばしば。
紙も表裏両方に書き、使った後の古い紙は壁の奥の建築材として使用する(これがのちに発見されて貴重な資料になったりする)。物によっては素材そのものが貴重で、たとえば江戸時代日本では焼け跡の鉄釘を一本一本拾ったりする。
このような状況であるから、「むかし」の人は今からすると信じられないくらいものを大事にするし、代々受け継がれるようなものを持ってもいる。ただ、それができるのはメンテナンスや修理、リサイクルが簡単な道具が多い、という点も見逃してはならないだろう。剣は研ぎ直したり金属に戻して打ち直したりができるが、同じ武器でも銃はちょっと無理がある。「いま」は科学が進んだが故に物を大事にするのが難しくなった時代もといえよう。
これらのポイントは物語の中でそのまま盛り込むにはちょっとケチくさすぎるかもしれないが、「ものが手作りであるが故に貴重で、値段が高かった」ということは知っておいた方が、「むかし」を書くにおいてリアリティが出ていいだろう。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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