できたらいいこと、いろいろ
有名アニメの主題歌よろしく「あんなこといいな、できたらいいな」という願望を多くの人が幼少期に持っていただろう。いや、今だって口にはしないけれど多種多様な願望が脳内に渦巻いたり潜んだりしているはずだ。お金がほしい、空が飛びたい、モテモテになりたい、あたりが定番だろうか。
物語創作において、このような願望は大事だ。書き手と読者に共通する願望がかなっていく展開は、読んでいて非常に気持ちよくなる事が多いからである。主人公が大活躍する「オレツエーもの(無双もの)」や、主人公の周りを魅力的な異性が取り囲む「ハーレム(逆ハーレム)」などはその典型と言っていいだろう。このようなパターンを「願望充足もの」という人もいるが、昔から非常に人気がある。特に「なろう」系のような、書き手と読み手の距離が近いメディアで多く見られる傾向があるとも言う。
単に叶えばいいものではない
ただ、このような物語パターンには注意しなければいけない重要なポイントがある。それは「ただただ願望が叶うだけでは面白くなりにくい」ということだ。ひたすらモテるだけ、ひたすら勝つだけでは物語に起伏がなく、面白みに欠ける。また、絶対に負けない物語は先が見えてしまうので、その点でも面白くない。
そこで、書き手にも工夫がいる。「勝ち方」や「モテ方」にバリエーションをもたせ、「先はわかるけれど面白い」にするのがひとつの手段だ。
もっと簡単なのは「簡単に願望を叶えさせない」あるいは「願望は叶ったが変な形で叶う」パターンだ。願望を叶えるために大変な試練を超える必要があったり、「望んでいない形で叶った」「叶ったせいでトラブルも抱えた」「主人公が望んでいないが読者は望んでいる願いが叶った(別にモテたくない主人公がある日突然モテモテになる、など)」という具合である。
このような工夫をこらすことで、「願望が叶う」というシンプルなら物語にいろいろな起伏や変化をもたらすことができるし、「単に願望が叶う話ってちょっと下品じゃないか?」という印象も持たれにくい(主人公が喜んでいないため)。


【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。