商人たちと信長の解決
交通を阻害し、経済発展を邪魔する各地の関所と通行料について、人々はどのように立ち向かったか。
たとえばヨーロッパでは各商人が地域の領主たちから通行料・関税の免除の特権を獲得したり、あるいは都市同士が「私たちに所属する商人同士の通行料や関税は免除しよう」と話し合うなどの動きが見られた。また、戦国時代日本では京周辺を支配した織田信長が乱立する関所の多くを撤廃させ、人の通行を自由にして経済を活性化させている。
「道が自由につながる」ことの問題
では、通行はなんでも自由にさせればいいかというと、そうもいかないのが難しいところだ。ここからは「通行料」というテーマからちょっとズレて、人の行き来がもたらす問題を紹介したい。
どんな問題が起きるのだろうか。この連載を書いている2020年7月としてはやっぱり疫病の感染が頭に上がるが、他にないか。思いつくかぎりあげてみよう。
地方で生活できなくなった農民や戦争・災害に追われた難民が都市部に大量に流れ込むと、物資が足りなくなったり、治安が悪化したり、ということになる。スパイが紛れ込んだり、危険な武器や麻薬などが入り込んだり、人質が逃げたり、ということもあるかもしれない(江戸時代日本では箱根の関所で「入鉄砲に出女」、すなわち鉄砲の流入と大名家の奥様が逃げることを警戒した)。
また、道が繋がったり、航路が発見されることで生まれる問題もありえる。道は人と人の交流やものの行き来も助けるが、危険なものを運ぶこともある。たとえば、新たな領域を支配せんとする軍隊や、鉱物資源を開発せんとする山師、人間を商品にしようと企む奴隷商人といった人々だ。外から新しい文化が流れ込んだ結果、伝統的な文化が消えたり変わってしまったり、ということもあるかもしれない……人の行き来は自由なら自由なほどいいとは言い難いのだ。
もし「いま」、新しい土地や星、世界への行き来が可能になったら、自由に通行することが許されるとはちょっと思えない。厳重な審査が行われ、場合によっては通行料も求められるかもしれない。そうすることで交通を制限し、問題が起きるのを防ぐためだ。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。