通行料はなぜ求められたのか
「いま」、普通の道を歩いていたり、隣の都市に出かけたりするだけでお金を取られることはあまりない。通行料や入場料を要求されるのは、高速道路のような特別な道、あるいは特別な建物に入るときだけだ(他国へ商品・荷物を持ち込むにあたって関税を徴収されるのは現代でも普通)。
しかし、「むかし」はそうではなかった。都市に入るとき、そして道に設置された門や関所を通るとき、通行料や入場料を税として払うのは当たり前のことだったのである。
それらの税はどんな名目・実質で徴収されたのか。もともとは道や橋、門、水路などといった建設に金と人手のかかるものの使用料という側面が強かったようだ。また他にも、通行人たちの護衛という名目で税を課せられることもあった。
しかし、何事もそうなのだが、既得権というものは時を経るにつれて「何かをしてあげるから代わりに払う」のではなく「とにかくそう決まっているのだから払う」という強制的なものに変わっていく。通行料もまさにその典型で、その土地の支配者が通行人から取り上げる税となっていくわけだ。
これと関係して知られる制度として「馬車の転倒などの結果、地面についた荷物は領主のもの」というものがヨーロッパにはあったそうで、領主が土地とそれに関係するものを支配していたという当時の価値観を理解してもらえるのではないか。
乱立する関所、困る旅人たち
このような通行料や荷物にかける関税は、地域全体を支配する権力者がいる時代ならまだいいが、小さな勢力が乱立するような時代になると非常に困ったものになる。あちこちの道や水路に関所が立ち、そこを通るごとに徴収されるようなことになりかねないからだ。
権力者にとっては何もせずとも税が入ってくるから大変結構なことだが、各地を移動する商人などにとってはたまらない。交通の便が悪くなるというのはイコール経済が停滞するということなので権力者にとってもいいことではないのだが、それが理解できる権力者は決して多くなかったのだろう。
関所を迂回すれば通行料を払わずに済むが、そのような道は通行が困難だし、また当然のことながら「迂回路を使うことを禁止し、破ったら罰金」などという制度もあったので簡単ではなかった。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。