第3回「「いま」だからこその病気の恐ろしさ」

ファンタジーを書くために過去の暮らしを知ろう!

世界が狭くなり、病はもっと怖くなった

前回は「いま」と比べて「むかし」の疫病の話を紹介した。空気感染、動物、食べ物、傷口などを媒介にして忍び寄る病気は人類をたびたび苦しめ、またそのせいで人間同士でも差別が生まれるなどの歴史があった。しかし、「いま」はそれらの病の多くは抑え込まれている――というのが前回の話であったわけだ。
では、「いま」、私たちは疫病の恐怖から開放されているかというと、残念ながらNOであることは現実が証明してしまっている。いわゆる新型コロナだ。「むかし」と比べて「いま」、私たちが病により大きく苦しむとしたら、そこに何が関わってくるのだろうか。もしあなたが近未来の物語を書くのであれば見逃してはならない重要なポイントだ。
まず、人間同士の交流の範囲と速度が劇的に上昇した、という点から押さえておきたい。たとえば、人里離れた小さな村で疫病が発生したとしたらどうか。大きな都市まで出るのに三日かかるとしたら、病気のキャリアはなかなか都市までたどり着けない。結果、細菌なりウィルスも感染する機会を失うことになる。これは極端な例だが、移動手段が徒歩、馬、船だった時代、病気が広まるスピードに限界があったのは事実だ。
しかし、「いま」は違う。飛行機を使えば地球の裏側まで簡単に行けてしまう時代、世界の片隅で発生した疫病があっという間に世界中へ広まってしまう。

隔離が難しくなった時代

他にもポイントはある。感染症に対する一番の対策は感染源との接触を断つことで、人間と人間の間で伝染る病気なら病人やキャリアを隔離するのが良い。しかし、現代社会はそれが難しくなっている。
なぜか。理由は色々ある。自由な行動は人権的に保証されているからというのもある(だから多くの国では病気対策が理由なら強制的に隔離できるようになっていたりする)。新型コロナの場合、誰が感染させているのかわかりにくい(多くの病気は症状が出ている時に感染させる力が強くなるが、新型コロナは無症状でも感染させる力が強い)。
それに加えて、現代社会は、社会の中での交流を止めてしまうと経済的な損失が大きすぎる、というのもある。国内で見ても、「人と接するのをやめよう」とした結果として多くの企業や事業者が苦しんだのを皆さんも見たろう。
加えて、国際的にも、本来なら動いていた人、物、金が少なからず止まってしまった結果、多くの経済損失が出たのである。現代のグローバリズム社会において、殆どの国が他国とのつながりの中で生きており、孤立してしまうと「仕事がなくなる」「食料がはいってこなくなる」となってしまうのだ。「むかし」なら他国や他地域は親しい友だちのようなもので切り離されても命に別状はなかったが、「いま」では同じ体の一部のようなものなので切り離されたら生きていけない……といえばわかってもらえるだろうか。
このように、人類は発展したがゆえに病気に弱くなった、といえるのだ。近未来ものを書くならこの点はぜひ押さえておきたい。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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