第2回「病は人を怯えさせた」

ファンタジーを書くために過去の暮らしを知ろう!

疫病の恐ろしさ

前回は傷口の治療について「いま」と「むかし」を紹介し、その中で清潔の概念が少なからず違ったことを紹介した。この点でもう一つ人々の暮らし、命との関係で浮かび上がってくるのが疫病の問題である。
奇しくも本連載を執筆している「いま」であるところの2020年7月は現代社会でも病気の蔓延が大問題になっている。しかし、少なくとも死者の数という点を歴史的な目で見ると、まだまだ非常に少ないとは言える。たとえば日本で考えても、百年前のスペイン風邪(実際はインフルエンザ)で38万人を超える死者が出たと言われているからだ。日本の人口が5-6千万だった頃の話である。
かつて、私たち人類はさまざまな流行病に苦しめられた。代表格は中世ヨーロッパで「3人に1人が死んだ」という凄まじい被害をもたらした黒死病(ペスト)で、空気感染するものもあったし、ネズミなどが媒介するものもあった。

さまざまな病気たち

他にも、「天然痘(治っても跡としてあばたが残る)」や「ハンセン病(皮膚がただれたようになる)」や「赤痢(下痢や血便などをもたらす)」などが人々を長く苦しめた。また、これらの病がしばしば感染することが知られたため、ハンセン病のように実際には感染力が強くない病であっても患者は隔離され、差別されるようなことがあった。
また、一般的な風邪やインフルエンザは現代を生きる私たちにとって「治る病気」「死ぬことはない病気」だが、過去には「死に至る可能性が十分ある病気」だった。それは現代のように症状を適度に抑える薬や特効薬などが見つかっておらず、また栄養失調で身体が弱っているものが多かったからだ(そのような薬がないインフルエンザの恐ろしさを、今まさに私たちは味わっている)。
ちょっと面白いところでは食べ物に関する病がある。ヨーロッパで猛威を奮った「壊血性麦角中毒」を紹介しよう。
壊血性麦角中毒は麦を始めとする稲類の穀物に菌が寄生してできる「麦角」を食べることから来る病気だ。黒い角が生えたような見た目からついた名前だが、このようなものを食べてしまうのは他に食べるものがなく、飢えているからこそである。
「いま」において、私たちは「むかし」と比べると驚くほど病から守られている。それは社会の隅々まで行き渡った清潔さと、予防注射と、特効薬のおかげである。もし現代を生きる私たちが「むかし」に突然現れたら、すぐさま病にやられて死んでしまうのは請け合いだ。
……異世界転生者にチートをくれる女神様におかれましては、言語の自動翻訳と同時に病気への耐性も基本セットとして組み込んでいただけますようお願いいたします。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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