第48回「転校生」

榎本海月の連載

どこから、なんの理由で?

一般に、学校に入学したら卒業するまで同じ学校に通うものだとされている。しかし、何かしらの事情があって同じ学校に通えなくなることはある。専門学校など、「その学校に通うことに意味がある」学校だとどうにか通い続けるか、そうでなければ辞めるしか無い。
だが、小学校~高校のような義務教育とその延長線上の学校の場合は、転校という手段を取ることがほとんどだ。学校を移ることで学業を同じ水準で続けることができるのだ。
キャラクターとしての転校生を考えるときには、「どこから来たのか」そして「何故転校することになったのか」が大事だ。各地方出身なら方言という形で現れるし、都会出身なのか地方出身なのか、北国出身なのか南国出身なのかでキャラクター性は大きく変わる。
そして何よりも、転校の原因だ。一般的なのは「親の仕事の都合」だが、そういっているだけでもっとシリアスな事情が隠されているのかもしれない。リストラされたり離婚したりした親が地元に帰ってきた、などというのはいかにもありそうだ。親がいなくなって祖父や親戚に預けられているというのはどうか。元の学校で何かしら問題を起こしたのかもしれないし、もっとファンタジックな事件を起こして逃げるように故郷を離れたのかもしれない……。

状況をかき回す

転校生は安定した状況を引っ掻き回す要素だ。学生たちにとってごく当たり前なことを知らないから、思いもよらぬことに疑問を持ち、また否定する可能性がある。その事によって不和を生み、対立を発生させることもあるだろうが、一方で凝り固まっていた考えを解きほぐし、新しい発見に導くこともある。
そのような変化は、ある人にとっては好ましいものだろうし、また別の人にとっては危険な、嫌な、恐ろしいものに見えるだろう。大体の場合、安定で利を得ていたものは後者で、意識せずとも損をしているのは前者だ。結果、とんでもない混乱が訪れることもある――その時転校生は積極的に扇動をするのかもしrないし、揉め事になるとこっそり逃げたり、最初から我関せずなのかもしれない。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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