♠35回「芸人のキャリアプラン」

榎本海月の物語に活かせるトラブル&対応事典

学校からプロへ

弟子入り(徒弟制度)に代わって近年主流になったのが、主に芸能事務所が運営している学校に入ることだ。先鞭をつけたのが吉本事務所のNSCで、この第一期にダウンタウンが出てきたのが学校方式の成功を決定づけたと言っていいだろう。以来、現在TVでその姿を見る芸人たちの多くがNSC他の「お笑い学校」を卒業し、事務所に所属して芸人になるというルートを通っている。
もちろん、ほとんどの卒業生は学校を出ても仕事などほとんどなく、たまにある小さなイベント(ギャラは出ないかむしろ払って出演する)で技を磨き、ファンを増やして、いつかはテレビに出て人気者になろうという夢を見ながら生活費のためのバイトに勤しむ日々を過ごす。この辺りは成功した芸人たちの自伝にさまざまなエピソードが記されていて、非常に生々しく面白いので、別に芸人の話を書くのでなくとも読んで損はない。
一方で、今でも学校卒でない芸人は少なからずいる。芸に少なからずセンスや本人が生まれ持ったあるいは養ってきた人間性・経歴の要素がある関係で、学校以外のオーディション・スカウト的なルートを開いている事務所もあるからだ。
また、この10年ほどの間に爆発的な人気を獲得した「YouTuber」たちも、芸人と同種の存在と見ていいだろう。YouTubeをはじめとした動画サイトに動画をあげ、配信を行うことで活動する彼らは、コント・漫才的な芸を行うことは基本的にないが、芸人たちがテレビで行う話芸、あるいは体当たり芸(痛い目に遭う、楽しんでいるところを見せる、など)を少なくない部分で踏襲しているからだ。結果、人気が出たYouTuberがテレビ側にある種の逆流現象を起こす……というのも近年よく見るようになった。これも芸人になるルートの一部と見てよかろう。
それどころか「テレビで既にある程度の地位を獲得した芸人さえもYouTubeに進出する」のが珍しくなくなった昨今である。
余談だが、YouTuberがテレビに進出する、あるいはテレビの芸人がYouTubに参入するという流れは数年単位の波があるようで、近づいたり離れたりを繰り返している。色々な芸人やタレントたちが生き残りをかけて挑戦し、成功したり失敗したりの悲喜交交も、やっぱり生々しくてネタ元として面白い。

一発屋芸人と呼ばれて

話を戻して、芸人たちのたどるルートを追いかけてみよう。劇場の出番やイベントで活躍して人気が出るとやがてテレビにお呼びがかかる。漫才やコントなど「芸」が評判になることもあれば、テレビ番組でのおかしかったり愚かだったりする振る舞いそのものが受けることもある。
「芸」が評判になる場合はものすごく短期間でドカンと人気が出ることもあるが、そうするとテレビでは定着せず、すぐに人気が衰えてしまうケースも多い。いわゆる一発芸人だ。彼らはテレビに出られなくなることが多いが、その代わりに地方を中心に「営業」、すなわち各種イベントで芸を見せることで大いに稼ぐものも少なくない……。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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