拾ったものはいつ自分のものになる?
何か不思議なアイテムやお金を拾う、発掘するところから始まる物語はそう珍しくない。物語の主人公たちはこれを簡単に自分のものにしてしまい、それ故に事件に巻き込まれるわけだが、実はこれ、基本的には犯罪行為であることはご存知だろうか。
民法は239条で所有者がいない動産は最初に占有した人のものである、と定義している(なお不動産は所有者がいないならイコール国のもの)。ただ、これが空気であるとか野生動物であるとかならともかく、古びた剣や100万円の入った鞄だと、こうはいかない。これらは明らかに遺失物と判断されるから、そのまま持ち帰ったら遺失物等横領罪が成立する。1年以下の懲役または10万円の以下の罰金もしくは科料だ。
そこで、罪から逃れるためには持ち主に返さねばならない。落とした人がいるなら返せばいいが、いないなら交番なり警察署なりに持っていき届ける必要がある。あるいは拾った建物の管理者か、電車の車掌、船の船長でも良い。
警察に届けたが3ヶ月経って誰も持ち主だと主張しないなら、ここで晴れてその遺失物は拾い主のものだ……ただ、それが喋る剣だとか未来から飛ばされてきたロボットとかだと国家の判断も関わってくるかもしれないが。
なお、落とし主が現れた場合でも、5パーセント以上20パーセント以下の謝礼を求める権利は残る。よく1割というが、法的には以上のとおりだ。
棚ぼたで手に入れたものは……
ちなみに、うっかり手にする大金(アイテム)というケースは、「拾う」だけではない。間違って送られてきたり、間違って振り込まれたり、というケースだ。
この場合は民法703条、不当利益の返還義務が成立して、返さねばならない。ならないのだが条件がついていて、「利益の存する限度」でいい。つまり、振り込まれた金をパーっと使っちゃって全然残ってないとか。食べ物だから食べちゃったなどだと、存している部分だけ返せばいいのだ。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。