♠31回「怪獣災害の罪は誰に問うか」

榎本海月の物語に活かせるトラブル&対応事典

怪獣が壊したものの罪と罰

以前、怪獣その他との戦いの中でヒーローが建物を壊したら……という話をした。さて、怪獣が暴れ回ったあと、残された被害はどのように処理されるのであろうか?
怪獣の大きさや能力、ヒーローが来てくれるかどうかにもよるが、一般にその被害は甚大である。初代ゴジラの時代でさえ10万人が死んだと目されるし、その後の作品では人口も増えているからもっと沢山が死に、建物が壊れ、生活と経済が破壊されたはずだ。
その罪を誰に問えばいいのか? 自然発生した怪獣であれば問いようがない。台風や火山を法廷に連れ出せないのと同じことだ。宇宙人や地底人や諸外国といった自国の法律の外にいる存在が操っていた場合も、法律でどうこうという話ではなくなる。国が何某かの賠償金を請求し、その一部を被害者支援に充填する、という形になるだろうか。
しかし、法律の中にいる自国人が引き起こした災害であれば話は別だ。商社が見世物として輸入した怪獣が逃げ出して暴走した、研究所で培養していた生物が超巨大化して暴れ出した、保存していた卵から不思議な怪物が出現したーーそして、甚大な被害を出した。そうなったらどうなるだろう。
もし、怪獣の存在を知りようがない状態であれば、罪には問われない。そこに「故意」がないとされるからだ。殺人などもそうで、故意がなければ基本的には罪に問われない。法律がそのように規定しているのである。
しかし、「もしかしたらこの卵から怪獣が現れるかもしれない」とわかっていたなら、話は別だ。「下手したら暴れるから気をつけなきゃな……あ、やっちゃった」ならもちろん故意性が見出されるし、「まあないと思うけどもしかしたらこの卵から不思議な怪物が現れるかもね、いやもしかしたらね」でさえも故意を認定される可能性がある。後者のようなケースは「未必の故意」と言われている。

法律の外にある罰

また、ここまで紹介してきたのはあくまで法律(それも主に刑法)の話である。民放では裁判所の判断次第でなんらかの責任が認められる可能性はないとはいえない。そしてなによりも恐ろしいのは「世間の評判」だ。理性では「責めても仕方がない」「法律には抵触しない」とわかっていても、我慢できないのが人間のサガというものである。十分に予防できなかった国家が、原因を作ってしまった個人や企業が、さぞテレビやインターネットで「叩かれる」ことになるだろう。そのような社会的ダメージは、現代においては時に法律以上に恐ろしいものである。
ちなみに、こうした問題は昔からあって、何かしらの災害が続くのは君主の徳が足りないから、政治が悪いからだと言われてきた。人間の感覚は昔とそんなに変わらないのである。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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