バトルの余波も大変だ
バトル・アクション展開でもう一つありがちなのが、戦っている時の余波で周囲に被害を与え、ものや建物にダメージを与えてしまうケースだ。荒野の戦場で戦うのだったり、荒廃した都市でゾンビを退治するのであればともかく、現代の生きた都市で戦えばどうしても周囲に被害は出る。特に怪獣ものでは大規模な戦闘が行われ、巨大建造物や巨大ビルが次々倒壊していく……あるいはもう意図的にぶっ壊す、という光景が当たり前に見られる。この辺り顕著なのがゴジラシリーズで、その時々の有名建造物はとりあえず壊す、というのがほとんど名物になった。『シン・ゴジラ』では東京の巨大ビル(当時建造中のものを含む)を次々と破壊してゴジラの頭上から降らせ、あるいは横から倒れかけさせて攻撃するという前代未聞の光景が描かれて多くのファンを熱狂させたものだ。
緊急避難
これらの行為は罪に問われないものだろうか。ウルトラマンが景気良くぶっ放したスペシウム光線、あるいは怪獣を殴り飛ばしてぶつけるなどの結果、ビルが倒壊し家が潰れたら犯罪にならないのか。……民事だと少なからず揉めそうだが、刑事的にはウルトラマンに理がある。つまり、多くの場合襲ってきたのは怪獣側で、ウルトラマンは自分の身と人類を守るために戦っているのだから「緊急避難」が適用される可能性が高いのだ。
これは正当防衛によく似た概念で、自分の身を守るためにやることであれば通常だと違法の範疇であっても罪に問われないとするものだ。しかしやりすぎであれば過剰防衛と同じように免除ではなく情状酌量レベルに移行するのも同じ。違いとしては、相手側が攻撃など違法行為をしてきた時ではなく、両者の正当な行為(怪獣も好きで暴れているわけではないケースが多いので)がぶつかった時に採用される概念である。
なお、緊急避難を説明する時にはカルネアデスの板という概念が用いられることが多い。沈没した船から脱出する際、板が浮かんでいてしがみつけば助かるが、他にも同じような人がいる。しがみつけるのは一人だけで、複数人がしがみついたらおそらく沈む。この時他の人間を押しのけ、払いのけるには罪なのか……己の命がかかっているから仕方がない、というわけだ。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース(https://www.ndanma.ac.jp/nma/course/novel/)】講師として長年創作指導の現場に関わっている。