特別さを如何にアピールするか
今回からは、学園もので起きる出来事、取り入れると面白そうな物事を紹介していく。
日本の学校は一般に四月から始まる。学校だけでなく社会そのものが三月で一区切りにして四月から新しい始まりを迎える仕組みになっているのだが、これは世界的には日本を含むごく少ない地域でしか取り入れられておらず、世界一般には九月スタートが多い。
新入生にとって始まりはまず入学式であろう。地域にもよるが桜の時期であることが多く、新しい世界に飛び込むことの興奮・緊張と相まって、舞い散る桃色の花弁を美しく印象的なものと記憶に残す人は多いだろう。青春ものでは特に盛り上げたい場面である。
視覚的、あるいはイベント的な「特別さ」との出会いは、物語を作るにあたっては強調していきたいところである。スポーツ強豪校なら異常な猛練習(現代的にはむしろ一見ゆるい方がそれっぽいかもしれない)、農業高なら畑が広がっていたり牛が歩いていたり。都会の洗練された大学キャンパスのオシャレ感や、近郊大学のただただ広くてバスが通っていたりしている感覚など。特に特殊な学校が舞台の物語なら、その辺りの「特殊さ」を如何に強調するかをしっかり考えて欲しい。
オリエンテーション・イベント
入学後の流れは学校により色々だが、大規模な入学式があって、日を改めて教材の配布や教室の説明があり、学校についてのオリエンテーションがあって、授業開始、というのが一般的なあり方だろう。現代の学校は生徒やその親からの意見、クレームに非常に丁寧な対応をするから、この時点の説明はしっかり行う。
逆に言えば、特別な学校であることをアピールするなら、ここであえて説明をしない、嘘を話す、イベントをすぐに行う、とした方が特別感が出やすい。これは物語構造的にも合理的である。入学式のために学校に入ったら出られなくなって試験が始まった、最初は上級生がお客様のように扱ってくれたが数日して(逃げられなくなって)非常に厳しくなった、とするのは面白いかもしれない。
もちろん、学校が用意したイベント以外にも、四月中にはさまざまな出来事が起こりうる。部活やクラブによる勧誘があり、新入生同士が親睦を深める集まりがあり、校舎の中で迷って妙な場所にたどり着いてしまったり。四月の学校とそこでの人間関係はまだまだ未知の場所。そこをしっかり活かしたい。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース(https://www.ndanma.ac.jp/nma/course/novel/)】講師として長年創作指導の現場に関わっている。