2019年に誕生105年を迎えた「宝塚歌劇団」とは、1914年の第1回公演から始まり、2014年に誕生100年を迎えた歴史ある歌劇団です。所属する役者がすべて女性のみで構成されているという大きな特徴を持ち、花、月、雪、星、宙の5つの組に1人ずつトップスター(男役)&トップ娘役がいます。組には約80人が所属しています。
ドラマチックなストーリー、華やかな衣装やダンスといった、エンターテインメント性の強い作品を100年以上も生み出し続ける宝塚を参考に、小説との繋がりを考えてみましょう。
宝宝塚歌劇の舞台構成
公演は30 分の休憩を挟んだ3時間が基本で、2つの構成パターン!
◆約90 分のお芝居&約 60 分のショー
ドラマチックなお芝居(ミュージカル)と、宝塚の魅力である華やかな衣装・歌・ダンスを合わせたエネルギッシュなショーの2本立て。
◆1本もののお芝居
30分の休憩を含み3時間かけて前半後半に分けてじっくりとドラマを描いた1本もの。
ショーはないが組の80人程度いる組子を充分に活かし、ストーリーの規模も大きなものが多い。
主な公演場所
宝塚大劇場・宝塚バウホール(兵庫県)/東京宝塚劇場(東京都)/梅田芸術劇場(大阪府) 日本青年館(東京都)/博多座(福岡県)など ※愛知県は長らく中日劇場で公演をしていたが、今年から御園座に。 東京は、日本青年館が多かったが、文京シビックホール、東京建物 Brillia HALL、 赤坂アクトシアター、国際フォーラムや神奈川の神奈川芸術劇場などで開催されることも増えてきた。
劇場の組み合わせ例と流れ
2組が本公演
・宝塚大劇場/東京宝塚劇場
残り3組はのうちのいくつかの組がどれかの劇場で公演(ひと組2チーム程度に別れる)
・バウホール
・梅田芸術劇場
・東京公演(文京シビックホール/東京建物 Brillia HALL)
・神奈川芸術劇場
・御園座
・博多座
・全国ツアー
5つの組はそれぞれ、宝塚大劇場、東京宝塚劇場の順で公演を行い、その後、2つぐらいのグループに別れて、バウホールだけの公演だったり、関西と関東両方で行う公演だったり、全国ツアーだだったりを行う。この場合、一つのグループはトップスターが主演を務めるが、もう一つのグループはトップ以外のスターが主演を務める。バウホールは若手スターに経験を積んでもらうための場である場合が多い。中日劇場、博多座では年1回約1ヶ月、トップスターによる公演が行われここは本公演と同じく芝居プラスショーや本公演と同じ1本ものが多い。
その他の劇場では、1本物で時間も全部で2時間半の時が多い。
全国ツアーは基本、本公演で行われたものの再演で芝居+ショーか、『ベルサイユのバラ』『風と共に去りぬ』などの人気作の1本物が多く、公演時間は三時間である。
全国ツアーは基本トップスターが行うが近年は二番手スターが主演をすることも増えてきた。
宝塚とエンタメ小説
トップスターのために物語を書く
宝塚は各組にトップスターと呼ばれる組を背負う男役がいる。 宝塚の物語はトップスターを魅力的にみせることを重視して物語が作られる。 また、役者はトップスターの他にヒロイン1人、準主役級3人程度の5人程度がメイン となって物語を動かす。
宝塚はラブロマンスが魅力
主人公とヒロインの恋、または三角関係などの関係萌えも観客の心を掴む魅力の一つ
トップスター(男役) … 主人公
トップ娘役 … ヒロイン
準主役級3人くらい … 主人公の友人、敵、恋いのライバルなど
↓
小説も同様に、300 枚の原稿でしっかり描くことができるのは5人程度。
とくに主人公が魅力的であることは大切!
宝塚(舞台)が創作活動の参考になる点
◆セリフ回し
1回の公演で時間が限られている舞台では、無駄なセリフを入れることができない。必要な場所でより効果的なセリフが要求される。また、主要人物たちがどのような比率でセリフがあるのかも、群像劇のセリフの勉強になるだろう。セリフでいかにキャラクターの個性が出せるのかも重要なポイントだ。
◆物語構成
映画やテレビと違いカットができない演劇では、決められた時間内で収まるように考えて、物語が作られている。観客を飽きさせない見せ場の作り方や、主人公をどのように成長させるかと言った点で参考になるだろう。また、演劇では主要人物たち以外にモブキャラクターも多数出演する。これらは、小説の情景描写の部分である。描写が苦手な人は、主要キャラクターの脇でモブキャラクターたちがどのような動きをするかも見てみるといいだろう。
◆臨場感の出し方
舞台ではストーリーを見せるために役者を動かして演技をし、衣装や歌・ダンスなどといった聴覚や視覚を刺激する演出が可能。また、大掛かりな舞台装置や、迫力ある生演奏も魅力だ。小説では、基本的に五感のすべてを文章のみで表現しなくてはならない。同じ脚本でも演出一つでがらりと作風が変わるし、シーンの印象も違う。様々な舞台を見ることは、シーン作りの勉強になる。
→舞台は生き物。舞台は同じ公演の度にリアルタイムで作られるもの。繰り返すことで役者の演技も上達し観客が変われば劇場の雰囲気も変わる
◆価値観を考える
「宝塚」の場合、トップクラスのスターのファンサービスに加え、見てるだけで楽しめる舞台装飾や衣装が充実していながら、S 席でも10,000円以下でチケットが手に入る。小説の場合、文庫本は1冊600 円程度であるが、内容がつまらなければ600 円でも高いと感じる読者もいる。読者に、いかにコストパファーマンスがいいと感じていただけるように、読者を意識してストーリーやキャラクターを考える必要がある。
→宝塚のファンもお気に入りのトップスターの活躍する作品を期待している点で、ファンのことを考えた作品が作られている
◆リピート
「宝塚」にはマンガや小説を原作としたもの、海外ミュージカル(翻訳劇)、オリジナル脚本がある。また、原作のある作品は、アレンジの勉強にもなる。基本新作主義というのも「宝塚」作品の特徴でり、「劇団四季」など大手の劇団が行う「ロングセラー方式」などとも異なる。(『ウィキッド』や『ライオンキング』など)
→続編の制作も滅多にないが、面白いと感じた客は上演中リピートしてくれる。人気小説が増版されシリーズ化されるのも同じと言える
宝塚の特徴
◆役者全員が女性
歴史ある宝塚歌劇団の一番の特徴として、役者全員が女性のみの演劇集団という点があげられる。
当然男役も女性であり、宝塚ではこの男役こそが魅力のメインであり、一番人気のある男役がトップスターとして各組の主役となる。
立ち居振る舞いや仕草、ダンスの振り付け等、細かい点までよく研究されている。
→小説でも人間観察などは大切なポイントとなる
◆ファンサービス
舞台から客席の通路に降りる「客席降り」というサービスがある。お芝居の際に客席の通路を使う演出もあるが、「客席降り」のメインは通常のショーやコンサートのトークショーなどである。臨場感があり間近で役者さんを見られるだけでなく、SS席(特に最前列)の場合は高確率でタッチなどをしてもらえる。
→直接触れ合えるという意味で、作家のサイン会やトークショーにも相当する
◆衣装が煌びやかで華やか
光沢のある素材やレース、スパンコールなどをふんだんに使用した衣装やドレスが多く、スタークラスほど派手になる。
舞台の最後には出演者がひな壇を降りてきて挨拶をする「フィナーレ」があり、ここで背中につける「羽根」はトップスターの証であり、タカラジェンヌ(組子)の憧れ。
以上、大変簡単ではあるが、宝塚歌劇を紹介させていただいた。宝塚歌劇は残念ながらレンタルはされていないが、今は、オンデマンド放送などで見ることもできるのでぜひ、一度見てほしい。
榎本秋
榎本 秋(えのもと あき)
活字中毒の歴史好き。歴史小説とファンタジーとSFとライトノベルにどっぷりつかった青春時代を過ごし、書店員、出版社編集者を経て2007年に榎本事務所を設立。ライトノベル、時代小説、キャラ文芸のレーベル創刊に複数関わるとともに、エンタメジャンル全体や児童文学も含めて多数の新人賞の下読みや賞の運営に関わる。それらの経験をもとに、小説、ライトノベル、物語発想についてのノウハウ本を多数出版する。