第10回「屋上」

榎本海月の連載

屋上は入れるか入れないか

 昼休みを過ごす場所は、教室や学食だけとは限らない。食事や憩いの時間を開けた場所で過ごしたい、という学生たちも多いからだ。その舞台になる場所の一つが屋上である。
 多くの学校には屋上がある。しかし、これが学生たちが立ち入り可能な空間になっているか、というと必ずしもそうではないようだ。出入り口が施錠されており、出たとしても給水タンクがあるくらい、というのが実際の学校では多いとされる。
 これは屋上という空間が危険だからだろう。もちろん普通フェンスで囲って安全は確保されているのだが、なにがあるかわからない。自殺志願者がフェンスを乗り越えて縁に立ってしまったなら、学校中が大騒ぎになるだろう。
 ただ、物語の中ではしばしば学生たちが自由に過ごせる屋上が登場する。ベンチがあったり、緑があったりして、憩いの場となっているケースもある。これは、書き手や読み手の「こうだったらいいのに」という憧れが投影されているのかもしれないが、それ以上に物語を展開する場所として屋上が便利だ、ということもあるのだろう。

屋上は開けている

 屋上は非常に開放的な空間だ。単に外であるだけでなく、視点が高いし空にも近い。そもそも学校という場所自体が校庭という開けた空間を持っていることとも相まって、屋上に立つと大変な開放感を得ることができる。学生たちが校庭で体育や部活に勤しむ様子や、市街地、広い空、夕暮れなどを屋上から見る――それも授業をサボったり、放課後の授業から開放されたりの状態でとなると、大変に開放的な気分になれることだろう。
 また、屋上はエアポケット的な場所でもある。そこに近づく人は決して多くない。特に「開放されていない」屋上はそうだ。そのため、授業をサボってタバコを吸ったり(未成年の喫煙は禁止です!)、悲しみを抱えて一人ぼっちになったり、人前ではできないはっちゃけた楽しみ(歌を歌う、など)をするのにぴったりだ。そうしてひとり浸っていたら、実は先客がいてびっくり、あるいはその逆、などというのはいかにも物語の始まりに相応しいアクシデントであろう。
 あるいは、屋上にいるからこそ注目される、ということもあるかもしれない。一昔前のテレビ番組で、屋上から大きな声で主張・告白をするというものがあった。あのように、屋上から大きな声がしたり、大音量で音楽が降ってきたら誰もがそちらに目をやるだろう。そこから何かが始まっても面白い。なにしろ、屋上は学校のどこからでも見える・わかる場所なのだから。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース(https://www.ndanma.ac.jp/nma/course/novel/)】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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