♠9回「“眠れない(眠らない)”は何をもたらすか」

榎本海月の物語に活かせるトラブル&対応事典

不眠の害

人間には睡眠が必要だ。寝ることによって生活リズムが整えられるし、なによりも寝なければ生体機能に重大な齟齬をきたす。ストレスなどの影響で不眠症に陥ると、人間のパフォーマンスはどうしても低下する。さらには、遺伝子病の一種で「致死性家族性不眠症」という、寝られないままついには死に至る病気だってあるのだ。
しかし、「寝る」ことが時間の無駄になってしまうことがしばしばあるのもまた事実である。例えば締め切り前の漫画家、テスト前の学生、作戦行動中の兵士。彼らにとって十分一時間は非常に貴重なものであり、睡眠時間を削ってでも活動したい、と考えるのは当たり前のことだ。
そこで精神力で寝まいとするのを始め、水風呂に入って目を覚ましたり、カフェインの入ったコーヒーやエナジードリンク、あるいは各種の薬物などを使用して起きっぱなしになろうとするわけだが、これが体にいいわけがない。無理に起きようとすることが、体にどんな悪影響を与えるのだろうか。
一般に、理想的な睡眠時間は7~8時間とされる。これは寿命が最も長くなる睡眠時間であり、たとえばこれより短いケースでは乳がんや肥満、心臓病や脳卒中などのリスクが高まるという。そうでなくとも、睡眠時間が減れば睡眠負債が増え、日中眠くなる。寝ない時間が続けば続くほど、知覚、記憶力、反応速度などが低下し、しまいには幻覚を見ることになるわけだ。
ただ、人によっては短時間の睡眠でも生活に支障をきたさない体質の持ち主もいる。いわゆる「ショートスリーパー」で、3時間程度の睡眠で十分活動できるという。日本での有名なショートスリーパーといえばお笑い芸人の明石家さんまだが、歴史的にはフランス皇帝ナポレオンがそうだった。

不眠の限界

ショートスリーパーといえど、全く寝ないでいいわけではない。では、起き続けるのはどこまで可能なのか。有名なのは1964年の実験で、264時間(11日)が記録されている。この際、被験者は2日目に視力低下、4-5日めに神経過敏(気分の不安定)、白日夢、記憶障害、知覚障害、その後は幻覚、会話不能、指の震えという症状が現れた。起きてはいられたけれど、とても活動できるという状況ではない、といっていいだろう。
この実験は命の危険があるとされ、2007年に266時間と記録が塗り替えられてもギネスブックには乗らなかった。しかし1964年の実験の被験者は反日の睡眠で体調が戻ったとされるから、恒久的なダメージが体に残るということでは必ずしもないようだ。
ショートスリーパーの件でもわかるように、どのくらい起きていられるか、そのダメージに耐えられるかは個人差がある。しかし、起きっぱなしだと各種のダメージが出てくる、ということは押さえておきたい。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。ネット小説創作入門』などがある。
2019年に新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』『ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトアイデアの考え方』(秀和システム)を刊行。
2020年の新刊には『古代中国と中華風の創作事典』(秀和システム)がある。
PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。愛知県名古屋市の【専門学校日本マンガ芸術学院小説クリエイトコース(https://www.ndanma.ac.jp/nma/course/novel/)】講師として長年創作指導の現場に関わっている。

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