A:伏線をしっかり張りましょう
前回は短い話についてのヒントを紹介しました。そうなりますと次は「長い話のコツを紹介してほしい」となるのが筋でしょう。
長い話を盛り上げるために必須なのは、「伏線」による盛り上げです。伏線とは「事件」や「どんでん返し」などの重要なイベントが起きる前に、それを示唆する記述やセリフなどを仕込んでおくことです。唐突に事件が起きるよりも、伏線をきちんと張っておくことで、盛り上がりを倍加させることができます。
ミステリーなどで「誰が犯人か」「どうやって殺したのか」「その動機は」などのヒントを伏線として散りばめることがよく知られていますが、このようなミステリー的手法は今の物語ならあらゆる作品で一般に使われるものです。仲間が裏切る予兆、主人公の決断につながる事情、成長のきっかけになる体験など、物語の中盤から終盤にかけて待っている大きなイベントに向けて伏線を貼るのは当たり前のことです。
ただ、このような伏線を必ずしも時系列順に書く必要はありません。つまり、その「大イベント」を書き終えてから、そこにつながる伏線を前に戻って書き足してもいいのです。こういう「書き足し」「書き換え」が比較的簡単なのは小説の利点ですね。他のエンタメではこうはいきません。
A:テーマを見失わないように
もう一つのポイントは、「長い話だからこそ、物語のテーマは忘れないように」です。前回紹介した通り、長い話では、短い話に向いていたインパクト重視のネタはあまり合致しません。奥深いテーマが必要になります。また、必ずしもテーマと直接つながらないキャラクターやイベントを盛り込んで、物語に深みを与える必要があります。
ただ、そうするとテーマがぼやけ、読者からすると「これ一体何の話なの?」ということになりがちです。そのため、長い話であるからこそ物語の芯になる主人公の目的や「この話はそもそも何がしたい話なのか」を明確にし、そのことを物語の中で繰り返し繰り返しアピールする必要があります。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。』などがある。2019年にも新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』(秀和システム)を刊行。PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。講師としては愛知県名古屋市の専門学校日本マンガ芸術学園にて講義を行い、さらにオープン参加形式で【土曜セミナー】毎月開催中。