A:暴走は悪ではありません
「キャラクターが暴走する」。これはつまり「キャラクターが当初の予定になかったような行動(発言)をする」ということなのですが、一度書いてみないとなかなかわからない概念だと思います。あるいは、「既に何作も書いているけれどそんなことは一度もなかったなあ」という人もいるでしょう。
キャラクターが暴走するかどうかはその人の創作スタイル次第なので、必ず暴走するというものではありません。しかし、魅力的な作品を書こうと思ったら、ちょっと暴走するくらいのほうがいい……ということも実はあったりするのです。
そもそもどうして暴走するのでしょうか。それは、キャラクターやストーリーについて事前の理解が甘かったことに理由があります。「プロットの段階ではここで主人公が敵を討つつもりだったんだけれど、これまでの展開からするとここではヒロインを優先するんじゃないかな」「この敵を思ったよりも強く書きすぎて、とてもこの時点での主人公では勝てないよ」と言った具合です。
では、暴走は悪いことなのでしょうか? いいえ、必ずしもそうではありません。むしろ、書いていく中でより自然な展開、より魅力的な描写を突き詰めていった結果として暴走が発生するわけなので、喜ぶべきでしょう。
逆に、暴走を経験したことがないということは、常にプロットで定めたとおりに書いているということで、これは創作の効率としてはいいのですが、ある種のドライブ感といいましょうか、「ノリ」が抑えめになってしまっている可能性があります。プロットの通り書くのもいいのですが、ときにはキャラクターの声に耳を傾けるのもおすすめです。
A:制御する方法があります
もちろん、キャラクターが暴走しっぱなしでいいというわけではありません。キャラクターが俳優なら作家は監督。役を把握している俳優のアドリブは物語を豊かにしますが、しかしそのワガママを通してばかりではそもそもエンドシーンに到達しません。どうしたらいいでしょうか。
一つの手は、暴走を受け入れて新しい展開、新しい結末を模索することです。しかしこの場合、もともと用意していたプロットをあまりにも変えてしまう展開は、全体の雰囲気を歪めたり、クオリティを下げてしまう可能性があります。テーマ性そのものが変わってしまうかもしれないからです。新しい展開に合わせて全体を書き換えるような覚悟があるならともかく、そうでないならプロットと見比べてどこまでの影響があるか考えましょう。
もう一つは、暴走を抑え込むことです。強すぎるボスが倒せないなら、強さを弱めたり、援軍を用意しましょう。主人公の告白をヒロインが受け入れられないなら、前のシーンに戻ってその問題を排除しましょう。

【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。』などがある。2019年にも新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』『日本神話と和風の創作事典』(秀和システム)を刊行。PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。講師としては愛知県名古屋市の専門学校日本マンガ芸術学園にて講義を行い、さらにオープン参加形式で【土曜セミナー】毎月開催中。