
他人の意見が欲しくなるときってありますよね。
自分が書いているものが本当に面白いのかわからなくなったとき。
方向性がこれでいいのか迷ってしまうとき。
そうでなくとも、褒めてもらえるのって嬉しいですよね。
面白い、先が読みたい、と言って貰えば、辛い執筆作業も苦にならなくなるものです。
だから、執筆中の作品や書き終えた作品を誰かに読んでもらうこと、そのものは別に悪いことではありません。
でも、もしあなたがプロ作家を目指して書いているなら、ちょっと考えものです。
なんでかと言いますと、普通の読者は適切な感想、アドバイスをしてくれないからです。
プロの編集者でさえ、作品に対して常に適切な評価を与え、助言をするのは難しいものです。ましてや素人では。
どうしても本人の好みや個人的な価値観に基づいた、偏った評価やアドバイスになります。
また、相手があなたにとって家族や友人など親しい人の場合はお世辞であったり、
あるいは「頑張って書いたことそのものへの評価」になりがちです。
それでも嬉しい、というのはわかります。でも、それを信じて作品の方向性を考えるのは悪手と言わざるを得ません。
そうでなくとも、他人の意見を聞いて他人が望むものを作るのって難しいんです。
有名な話で、「ハンバーガーチェーンのアンケートにはしばしばヘルシーなメニューの要望があるが、実際新メニューに加えると売り上げは良くない」というものがあります。
ある人が口にした望みが本当にその人の望みか、あるいは客全体の望みかはわからない、という教訓がここにあります。
ですから、創作をする人は、他者の感想は感想として受け止め、
しかし芯には揺るがない「自分の書きたいもの、良いと思うものを書く」心構えが必要なのです。
【執筆者紹介】榎本海月(えのもと・くらげ)
オタク系ライター、ライトノベル編集者。榎本事務所に所属して幅広く企画、編集、執筆活動に従事。共著として『絶対誰も読まないと思う小説を書いている人はネットノベルの世界で勇者になれる。』などがある。2019年にも新刊『この一冊がプロへの道を開く!エンタメ小説の書き方』『物語づくりのための黄金パターン117』『物語づくりのための黄金パターン117 キャラクター編』(ES BOOKS)、『異世界ファンタジーの創作事典』『異中世世界創作事典』『神話と伝説の創作事典』(秀和システム)を刊行。PN暁知明として時代小説『隠密代官』(だいわ文庫)執筆。講師としては愛知県名古屋市の専門学校日本マンガ芸術学園にて講義を行い、さらにオープン参加形式で【土曜セミナー】毎月開催中。